朝晴れエッセー「声かけ」母の形見の家電に感謝の言葉をかける
朝晴れエッセー「声かけ」母の形見の家電に感謝

「ありがとう」「大丈夫?」「お疲れさま」。日に何度となく口にする言葉。その相手は、二十数年目の冷蔵庫、やけに振動が激しい洗濯機、ごぼごぼ音を立ててようやく流れる台所のシンク、建てつけの悪い扉などだ。

母の急変と最期

昨年、母が他界した。10月まで、父から引き継いだ乾物卸の仕事を続け、まだ暑い中、1時間ほどかかる店へと背筋を伸ばして駅へ向かう姿を思い出す。10月末に入院し、2カ月足らずの闘病に付き合ったが、その間のあまりの急変ぶりは、悪い夢の中にいるようだった。

実家の老朽化と家電への思い

元日、一人実家で真新しい母の遺影と向き合う。ふと目を落とすと、畳がけば立っていた。年賀状を取りに出ると、家の外壁にはひびが入り、常夜灯は消えている。父が建てた実家は40年近くたつ。手入れの行き届かない建物や、「まだ頑張ってくれてるの」と母が言っていた家電たちは、息も絶え絶えに見えた。

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「気づいてあげられなくてごめんね」とつぶやく。この2カ月、心の中だけで母に繰り返した言葉だと思うと、涙があとからあとから出てきた。

感謝の言葉をかけて

細々とした手続きがあり、今日も大阪の実家にいる。脱水終了を知らせる音。肩で息をつくように止まった洗濯機をなでさすり「本当にありがとう」と声をかけた。

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