歌舞伎俳優の市川團十郎が3日(現地時間)、イタリアで開催中の「第83回ベネチア国際映画祭」のレッドカーペットに、歌舞伎の衣裳をまとって登場した。自身初のドキュメンタリー映画『襲名』(9月25日公開、インターナショナルタイトル:Shumei: The Living Legacy of Kabuki)の公式上映にあわせ、三池崇史監督、長男の市川新之助とともに参加。世界各国のメディアが集まる中、レッドカーペット上で堂々と見得を切り、日本の伝統芸能をアピールした。
衣装は『男伊達花廓』の御所五郎蔵
『襲名』は、十三代目市川團十郎白猿の襲名披露公演とその舞台裏を、三池監督が長期にわたって記録したドキュメンタリー。アウト・オブ・コンペティション部門に正式出品となった。
レッドカーペットで團十郎がまとったのは、歌舞伎演目『男伊達花廓(おとこだて はなのよしわら)』に登場する、江戸一番の男伊達・御所五郎蔵(ごしょのごろぞう)の衣裳。「成田屋」と記された、この日のために制作した和傘を差し、背中には尺八を背負って登場した。カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界三大映画祭のレッドカーペットを歌舞伎の衣裳で歩くゲストは史上初。世界各国から集まったメディアを前に、艶やかな衣裳と粋な立ち居振る舞いで歌舞伎の魅力を発信した。
團十郎が語った選考理由と意気込み
上映前に行われた日本メディア向けの取材で團十郎は、歌舞伎衣裳でレッドカーペットに臨む理由を「『襲名』が歌舞伎のドキュメンタリー映画ですので、今回は歌舞伎役者というものを世界に押し出していこうということで」と語った。
白塗りから衣裳の着付けまで準備が必要とあって、「本当は嫌なんですけど(笑)」と冗談を交えつつ、「世界の方々に歌舞伎という文化やその伝承、継承というものがこういう世界観であるよということが少しでもお目に留まるように、暑い中準備します」と意気込んでいた。
数ある歌舞伎の衣裳から『男伊達花廓』を選んだことにも理由がある。團十郎は、「『助六』や『勧進帳』もありますが、あまりにも『助六』や『勧進帳』は海外の方には誰が誰だかわからないだろうなと思いまして」と説明。「男伊達という粋な、ぱっと見はわからないけれどよく見るとかっこいいというような、日本の奥ゆかしさや文化の良いところ」が伝わると考えたという。衣裳に描かれた龍の墨絵や市松模様の帯にも触れ、「(『鬼滅の刃』の)炭治郎のベースはこっちだよ!というところも含めて(笑)、よく伝えられると思いました」と笑わせる場面もあった。
團十郎の感慨と新之助のコメント
團十郎にとって国際映画祭への参加は今回が初めて。一方、ベネチアには幼い頃から父・十二代目市川團十郎さんと訪れており、思い出深い場所だという。「みんなと一緒に作っていった作品で、ベネチアという土地にお招きいただけて、しかもそれが父も関わる作品で、そこに孫にあたる新之助も一緒に来ることができるというのはご縁があるのかなと感じています」と感慨を口にした。さらに、亡き妻との新婚旅行もイタリアだったことを明かし、「街を歩いていると父のことや、あとは妻と新婚旅行でイタリアに来た時のことをいろいろと思い出しながら時を過ごしています。一緒に泥温泉に行ったり、レストランでイタリア語で注文した思い出など、懐かしい思い出がたくさんあります」と語った。
一方、新之助は初めて訪れたヨーロッパにも刺激を受けた様子で、「日本とヨーロッパでは空気感も、歩いている人の雰囲気も、料理の注文も全然違って、味わったことのない新鮮な空気感でした」と話し、「ベネチア映画祭という場に来て、世界って広大で壮大なんだなと感じました」とコメント。作品については、「昔の自分を見られるのはやっぱりすごく恥ずかしさもあるのですが、そうやって自分を振り返る機会はなかなかないので、映画として見させていただけたのはすごくありがたかったです」と話していた。
三池監督の喜びと團十郎の世界へのメッセージ
三池監督にとってベネチア映画祭は16年ぶり。「この作品『襲名』で戻ってくることができてうれしいです」と喜び、「みんなにとにかくこの2人(團十郎・新之助)を見てもらう、目撃してもらう。それがこの作品の自分にとってはテーマなので、上映がすごく楽しみです」と期待を寄せた。
最後に、歌舞伎を海外の観客にどう受け取ってほしいか問われた團十郎は、「文化の伝承というのはスムーズにはいかないものですが、平和があってこそ紡がれていくものです」とコメント。「『團十郎や新之助の歌舞伎を観てみようかな』と思ってもらえたら、それが一番の歌舞伎への貢献になると思っています」と世界に向けて思いを語っていた。



