日本の伝統的な包丁が、訪日外国人観光客の間で爆発的な人気を集めている。円安を追い風に、熟練の鍛冶技術が生み出す卓越した切れ味と美しい刃紋が、外国人の心を捉えて離さない。東京・台東区の「かっぱ橋道具街」では、包丁専門店がこの数年で3倍に急増し、新たな観光スポットとしても注目されている。
かっぱ橋道具街、包丁専門店が約30店舗に
日本最大級の調理道具専門店街であるかっぱ橋道具街では、コロナ禍前には約10店舗だった包丁専門店が、現在では組合非加盟店も含めて約30店舗にまで増加した。東京合羽橋商店街振興組合の担当者は、「後継者不足で閉店した刃物以外の店舗の後に、包丁専門店が次々と出店している」と説明する。
この流れを象徴するのが、新潟県燕市の包丁メーカー「藤次郎」が2023年にオープンした直営店「藤次郎ナイフギャラリー東京店」だ。店内には200種類もの包丁が壁面に並び、多い日には300組以上の客が訪れ、購入者の8割が外国人。特に欧米人が多く、1本10万円を超える高級包丁が売れることもあるという。
英国からの観光客「職人の魂を感じる」
先月、英国から訪れた32歳の男性は、友人からもらった日本製包丁の切れ味に感動し、この日は土産用に1本を購入した。「よく切れる上に美しい。職人の魂を感じる」と満足げに語った。彼のように、日本の包丁に魅了される外国人は後を絶たない。
海外で日本製包丁への注目が集まったきっかけは、2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことだ。近年は円安も追い風となり、人気に拍車をかけている。
売上高過去5年で最高、生産追いつかず
東京商工リサーチのまとめによると、調理用包丁メーカー38社の2024年9月~2025年8月期の決算は、売上高が167億3300万円と過去5年で最高を記録した。同社はインバウンド需要の増加が主因と分析している。
世界三大刃物産地の一つ、岐阜県関市に生産拠点を置く総合刃物メーカー「貝印」(東京)は、今年5月、外国人観光客が多い京都市中心部に初の直営路面店をオープンした。同社マーケティング本部の白井陽二郎さん(36)は、「これまでは百貨店やホームセンターに卸していたが、インバウンド需要の増加を踏まえて出店した。生産が追いつかない商品もある」と明かす。
フランス人が弟子入り、自ら包丁職人に
日本の包丁に魅了され、自ら職人となった外国人もいる。2012年に来日したフランス人のエリック・シュバリエさん(37)は、堺市の鍛冶工房から翻訳の仕事を依頼されたのを機に、鍛冶職人として弟子入りした。「鉄の塊が包丁に変わる過程に興味を持ち、自分で作ってみたくなった」と振り返る。
シュバリエさんは、堺の刃物の魅力を海外に伝えるコーディネーターとして働きながら鍛冶技術を磨き、昨年8月に同市内に自身の工房を開設した。「長い歴史と伝統がある包丁は日本文化そのもの。その歴史の重みに外国人は魅力を感じるのではないか。これからも包丁作りで日本のよき伝統を守りたい」と語る。
ランドセルや招き猫も外国人観光客に人気
包丁以外にも、外国人観光客の間で人気の日本製品は多い。ランドセルもその一つで、メーカーの「村瀬鞄行」(名古屋市)は、本来は受注販売のみだが、東京、名古屋、大阪の3店舗で2024年から外国人観光客向けに即日持ち帰りサービスを開始。頑丈さや形状の珍しさが受け、多い時には週に計3~4個が外国人に購入されているという。
「土屋鞄製造所」(東京)によると、海外ではランドセルをファッションアイテムとして大人が使用するケースが増えており、2020年には台湾に進出、現在4店舗を展開する。一般社団法人「日本鞄協会ランドセル工業会」の林州代会長(71)は「国内は少子化でランドセル需要は縮小傾向にあり、今後は海外へのアピールが重要になる」と指摘する。
また、招き猫発祥の地とされる東京都世田谷区の豪徳寺では、外国人観光客がSNSで紹介したことをきっかけに、招き猫の授与所に長蛇の列ができるようになった。生産が追いつかず、購入は1人1点限り。カナダ人女性(47)は「見た目がとってもかわいい。友人にたくさん買って帰りたかったけれど、一つしか手に入らなくて残念」と話した。



