ジブリパーク初の短編『魔女の谷の夜』宮崎吾朗×山下明彦が語る画面作りの秘密
ジブリパーク短編『魔女の谷の夜』宮崎吾朗×山下明彦インタビュー

愛知県長久手市の「愛・地球博記念公園(モリコロパーク)」内にある「ジブリパーク」で、初のオリジナル短編アニメーション映画『魔女の谷の夜』が、「ジブリの大倉庫」の映像展示室「オリヲン座」で上映されている。スタジオジブリの若手とベテランが集結し、キャラクターが動くこと自体の面白さを追求した本作。共同で監督を務めた宮崎吾朗監督と山下明彦監督が、制作を振り返りながら、宮﨑駿監督の作品が持つ魅力や画面作りの秘密を語った。

ジブリパーク初のオリジナル作品が生まれた経緯

『魔女の谷の夜』は、スタジオジブリがジブリパークのために制作した初のオリジナル短編アニメーションだ。宮崎吾朗監督は「ジブリパークには、一般的なテーマパークにあるような乗り物のアトラクションがありません。『何かアトラクションがあった方がいいのかな』と、ずっと考えていたんです。でも、そういうものを作るよりも、スタジオジブリが関わっているのだから、『映画を作ること』が一番のアトラクションになるんじゃないかと思いました」と経緯を明かす。

舞台を「魔女の谷」にした理由については、「一番発想しやすかったからです」と語りつつ、「『ハウルの動く城』は“動く城”なのに、パークのお城はずっと座ったままなんですよ(笑)。『これは動いていないと健康に悪いな』と思ったのが、きっかけだったのは間違いないですね」と笑いながら振り返った。

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短編を作り続けられる場所を

現在は個人でもアニメーションを作れる時代だが、多くの人に届ける作品を作ることは簡単ではない。ジブリパークで短編を制作することには、アニメーターが活躍する場をつくる意味もあるのだろうか。宮崎吾朗監督は「僕らとしては、『スタジオジブリがある』というだけではなく、そこで何かを作り続けていてほしいという気持ちがあります。ただ、目的がなければ作品は作れません。僕にできることは、『ジブリパークで上映できる作品を作りませんか』と声をかけることなのかなと思いました」と語る。

山下明彦監督は、この取り組みの一作目を手がけることについて、「パークのスタッフから『自分たちの映画がほしい』という声があることは聞いていたんです。一方で、スタジオ側も『君たちはどう生きるか』が終わった後、みんなで一緒に作る作品がなくなっていました。スタジオジブリに所属しながら、それぞれ別の仕事をしていて、『またみんなで作りたい』という声も聞いていたんです。パークにとっても、スタジオにとっても意味のあることだと思いました」と受け止めを語った。

脚本ではなく「絵のキャッチボール」で作る

物語はどのように作っていったのか。山下明彦監督は「実は、『魔女の谷の夜』とは別の案を進めようとしていたんです。でも、まったく絵が思い浮かばなくて(笑)。そうしたら、吾朗さんが『こういう案もあるんだけど』と見せてくれたスケッチがあって、一目見て『面白い』と思って、ぱっと絵が浮かんだんです。僕からも『こんなのはどうですか』と、お互いのアイデアを持ち寄りながら出来上がったのが『魔女の谷の夜』です」と明かす。宮崎吾朗監督は「絵だけのキャッチボールでしたね」と続ける。

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絵だけのキャッチボールで物語を組み立てていく手法について、山下明彦監督は「短編では、それほど珍しい方法ではありません。スケッチを並べていくと、『あ、つながった』となるんです。不思議と、ちゃんと三幕構成になってくれるんですよ」と説明。「才能があるわけでもないですし、作ってきた本数もそれほど多くありません(笑)。今回は吾朗さんのスケッチが良かったので、すっと形にはまりました。2週間くらいで全体像が固まりました」と振り返る。宮崎吾朗監督も「短編は、一つの発想や感情、イメージを軸にしても、意外と自然にまとまるんですよ。長編だと、物語を最後まで引っ張るための筋立てが必要になってくるので、そうはいきませんが(笑)」と語った。

「絵が動く面白さ」を取り戻す

来園者に楽しんでほしい点について、山下明彦監督は「一番の魅力は、舞台がすぐそこにあることです。『魔女の谷』という実際の場所があって、実写映画で言えばロケ地ですよね。映画を見てから現地へ行けば、『これが動くんだ』と楽しめる。先に現地を見た人は、『さっき見た場所が、こんなふうに動くんだ』と楽しめる。どちらの順番でも楽しめるのが、この作品ならではです」と語る。

また、「劇中ではキクエさん(CV:アイナ・ジ・エンド)が状況を説明してくれますが、パーク内の建物の気持ちは誰も説明してくれません。建物にも感情がある、というのも変な話ですが(笑)、それを言葉ではなく動きで表現しています。映像の力だけでどこまで伝えられるか挑戦したかったので、その部分を楽しんでもらえたらうれしいですね」と続けた。

宮崎吾朗監督は「山下さんらしく、動き回り続ける作品になっています。アニメーションにはいろいろな面白さがありますが、基本はやっぱり『絵が動く面白さ』だと思うんです。山下さんは、絵を動かす天才なんですよ。ただ動くだけではなく、山下さんの絵はすごく柔らかい。動きそのものが本当に気持ちいいんです。その心地よさが、作品全体を引っ張っていると思います」と絶賛し、「今回は本田雄さんや井上俊之さんら、優秀なアニメーターたちも力を尽くしてくれました。その動きそのものを、ぜひ見ていただきたいですね」とアピールした。

ジブリというブランドがもたらす重圧

スタジオジブリは、日本を代表するブランドとして世界中で認識されている。実際に中で作品を作る立場からすると、そのブランドをどのように感じているのか。山下明彦監督は「ブランドが確立されている分、下手なことをしてそれを汚したくないという気持ちはあります」と語り、宮崎吾朗監督も「プレッシャーはありますね」と同意する。

山下明彦監督は「自分が本当に作りたいものは、ジブリでは作れないかもしれないと思っています。ブランドを汚してしまいそうだから(笑)」と冗談めかしつつ、今回の短編については「今回はまったく新しいものを生み出したというより、これまでにある作品や世界観を使った映画ですよね。言ってしまえば、ファンサービスに徹した作品なので、ここでオリジナリティーを打ち出そうとか、自分自身を強く表現しようという気持ちはありませんでした。だからこそ、ブランドを汚さずに済むだろうという安心感はありました」と明かした。

また、「自分の役割として、少し古くさいことをやろうとしていました。昔懐かしい『漫画映画』のようなものを作りたかったんです。今、あまりないからです。現在のアニメーションを見ていて、『純粋に動いているだけで面白い』と感じる作品が、あまりないんですよね。動きが目立つのは、たいていバトルシーンじゃないですか。派手に爆発したり、激しく戦ったりする。でも、それ以外の『平場』と呼ばれる静かな場面では、キャラクターの芝居が十分に作られていないと感じることが多いんです。そういう場面に力を入れたくても、描ける人が少ないのかもしれません。静かな場面も含めて、すべてが当たり前のように動いて見える。そういう作品にしたかったんです。何でもない日常の芝居の方が、実は難しいんです」と制作意図を語った。

一方、宮崎吾朗監督は「音楽では、ジブリ作品として初めて“四つ打ち”を取り入れています。これまでのジブリ作品にはなかったロック調の音楽や、ゲーム音楽を思わせる曲も入っています」と新しさを強調した。

ジブリ美術館オリジナルの短編作品で学んだ宮﨑駿の厳しさ

ジブリパークを、新しい表現を試せる場所にしたいという考えもあるのか。宮崎吾朗監督は「それはありますね。三鷹の森ジブリ美術館向けの短編を作るという選択肢もなくはありませんが、美術館の短編は主に宮﨑駿監督が手がけてきたので、ハードルが高い気がするんです」と語る。

山下明彦監督は、美術館用の短編を一本作った経験を振り返り、「僕は美術館用の短編を一本作りましたが、その時に肝に銘じたのは、美術館用の短編は、やはり『プレゼンツ・バイ・宮﨑駿』だということです。宮﨑監督が『うん』と言わなければ、先に進まない。実際、かなりダメ出しされました」と明かす。その作品は『ちゅうずもう』で、「制作時はかなり苦労しました。ほかの現場なら通用することでも、宮﨑監督が納得しなければダメなんだと実感しました。大変でしたね」と振り返る。

その経験がどのように糧になったのかについては、「『作品を作るとはどういうことなのか』を学べたことです。『ちゅうずもう』は、日本の昔話『ねずみのすもう』が原作ですが、アニメ化する時には、まず『なぜ今、この物語を作るのか』を徹底的に考える。そこは、さすがだと思いました。その答えを突き詰めるためなら、普通ならためらうような変更を加えることもある。どんな題材であっても決して軽く扱わない。その姿勢を間近で見られたことは、本当に大きな学びでした」と語った。

「なぜ古くならないのか」

宮崎吾朗監督は、宮﨑駿監督の作品をどのように見ているのか。「最近改めて、宮﨑駿の映画は特殊だと思うんです。やっぱりすごいですよね。例えば『魔女の宅急便』を4Kデジタルリマスター版で37年ぶりに上映すると、10代、20代の方も見に来るじゃないですか。若い人が見て、今の作品としてきちんと受け取れる。同じ時期に作られたアニメーション映画を見ると、『昔の作品だな』と感じるものもあります。でも宮﨑駿の作品は違う。時間を超えて、今の作品として見られる。どうしてなんだろうと最近よく考えます」と語る。

山下明彦監督も「古くならないですよね」と共感し、「例えば、宮﨑監督の作品がテレビで放送されている時に、途中からテレビをつけて見ても、その瞬間から面白いんですよ。きっと、すべての場面が面白いんでしょうね」と分析。宮崎吾朗監督は「そうですね。一カットも無駄がないというか。やっぱり、絵そのものに魅力があるんだと思います」と応じた。

山下明彦監督は「何年かたってから見返すと、また新しい感覚で見られる。その不思議さもありますし、単に『古くならない』というだけではない気がしますね」と語り、宮崎吾朗監督も「何なんでしょうね」と首をかしげる。山下明彦監督は「分からないです。それが分かったとしても、結局まねはできないでしょう」と結論づけた。

一枚の絵に複数の視点を描く

「ジブリの大倉庫」で7月から始まった新たな企画展示「パノラマボックス展」の作品も、宮﨑駿監督の画面作りとの共通点があるのだろうか。宮崎吾朗監督は「それが、宮﨑駿の映画における画面作りの秘密でもあると思います。複数の視点から見えるものを一つの画面の中に描き込んでいるんです。よく『宮﨑駿のパースはラッパのように開いている』と言われますよね。正確なパースに縛られず、『どう見せたいか』を優先した空間を描け、と言われるんです。でも、それができない(笑)。結局、絵そのものに魅力があるんだと思います」と語る。

さらに、「押井守さんがジブリについて書いた本の中で、宮﨑駿の作品は絵本のようなものだから、年を取っても見られるし、若い人も見られるし、子どもも楽しめる。だから、ずっと愛されるのだろうと書いていました。『絵本』と言われると、確かにそうだなと思うんです。物語を聞きながら、動く絵本を延々と眺めているような感覚がある。一枚一枚の絵を見ているだけでも飽きない。それが宮﨑駿のアニメーションなんだと、改めて思いました」と語った。

ジブリパークについて

ジブリパークは、「ジブリの大倉庫」「青春の丘」「どんどこ森」「もののけの里」「魔女の谷」の5エリアで構成されている。チケットは全日予約制で、入場月の2カ月前の10日午後2時から販売される。9月入場分は発売中で、10月入場分は8月10日午後2時から販売。ジブリパーク公式サイトの案内に従い、Boo-Wooチケットなどから購入できる。