キャバクラで熱唱「ミスチル」、抱きつきおじさんの意外な素顔 アムステルダム外キャバレポート
キャバクラで熱唱「ミスチル」、抱きつきおじさんの意外な素顔

4月、オランダでチューリップ観光のシーズンを迎えた頃。アムステルダムにあるキャバクラ「Club Amsterdam」で働き始めて数日がたった。ケンブリッジ大学の春休みを利用して、外国にある日系キャバクラと、そこで働く外キャバ嬢の研究を続けている。

雇われているのは、私を含めて5人しかいない。この日の出勤は4人のはずだった。カナちゃん(20代)、美咲さん(30代)は、お店に到着して開店の準備を始めていた。掃除、おしぼり、氷……。それが終わると、赤と黒を基調としたお店の薄紫色のソファ席やカウンター席にグダッと座る。お店のお酒を飲み、備品のスナック菓子をぽりぽり頬張る。

カナちゃんはおもむろにノートを広げ、「やっぱりドイツ語できないと、ドイツ語圏で仕事もらえないんですよねー」と言って勉強を始める。みさきさんはファッション系のオンラインビジネスの準備をするために、パソコンを広げて仕事を始める。結局、出勤するはずだった4人目のベテランキャバ嬢のサラさんは、今日は来ないという。以前、Club Amsterdamで一緒に働いていたホステスの友人が、昔のお客さんに会うというので、そこに合流するそうだ。「3人で飾り窓エリアにあるSex showを見にいくので、今日は出勤しませーん」なんて自由なキャバクラだ。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

抱きつきおじさん、森田さんの登場

今日は予約が入っているという。アムステルダムで長年ビジネスをしている日本人だ。1人で来たり、人を連れてきたり、予約といっても、来店時間も人数もいつも未知数だそうだ。

予約していたお客さんは森田さん、60代。結局、夜10時になる直前に1人でやってきた。顔が赤く、すでに酔っ払っている。背は1メートル60センチ台であまり高くない。カジュアルなポロシャツにカバンも持たずに来たようだ。よく日焼けした顔はよく笑い、その度に目尻のシワが深くなる。酔っているからか、割と大きな声で「来たぞー!」と階段あたりで叫ぶ。森田さんは、「元気かー!?」と言って、出迎えたカナちゃんにいきなり抱きついた。それを背後で見ていた私はドン引いた。マジで関わりたくない、こういうおじさん……。

カナちゃんは特に反応もせず、森田さんのコートを受け取り、「はいはい、入ってください」と対応する。でも、私にはその目に「めんどくさぃ……」と思っているカナちゃんの冷めた部分を垣間見た。

困った客かと思いきや、接客していくうちに、意外と紳士でいい人だと知ることとなる。でも、やっぱり抱きついてくるお客さんは迷惑千万だ。なぜ水商売の女性なら勝手に触っていいと思い込んでいるのだろうか。時代遅れだ。

カラオケで見せる意外な一面

森田さんをテーブルに通して、焼酎ボトルを出す。私は森田さんに水割りを作り、カナちゃんはレディースドリンクを作りにカウンターに戻る。自己紹介をすると、森田さんは「何歳?」と聞いてくる。「30代半ばです」とボヤッと年齢をごまかして答えると、「いいねー。俺は子どもが2人いて、一番上は27歳なんだよ。カナちゃんと同い年。自分の子どもと同じ年齢のホステスなんて相手にできないよ! ガキだ! 俺は30オーバーの女がいい!」と言ってカナちゃんと私を茶化す。

私が研究者だと伝えると、森田さんは私に興味を持ちはじめた。「ええーおもしろい! えーこの子口説きたーい!」「森田さんも研究対象だよ」とカナちゃんがすかさず突っ込む。「俺は別だよ! だって、ここに来る他の客とは違うもん! 俺はね、まず歌が好きなの。カラオケしに来てるの」。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ

他のお客と同じことを言った。みんな、「自分は色恋目的で来ていない」「寂しい客じゃない」と主張する。本人たちが否定していても、欲しているものは一言で言えば、親密性と言われるものではないのか。それが友情であれ、親子的であれ、兄弟的であれ、子弟的であれ、恋愛であれ、推し活であれ、自分と相手の間に作られる、もしくは妄想される「親密的な何か」を、お客さんは買っているのではないだろうか。

私たちは引き続きドリンクをねだる。3杯目をねだった時点で、「ラスいちね!」と森田さんが言うので、もうこれ以上はねだれないと理解する。1人当たり3杯で15ユーロ(約2700円)のドリンクバックという名のチップをもらったことになる。

カナちゃんは「おなかすいたー」といってカップ麺を食べ始めた。森田さん含め、誰も何も言わない。なんとリラックスしたキャバクラだ!

「innocent world」の余韻と客の寂しさ

森田さんは最後に歌声を披露したいと言う。「ななちゃん、何の曲歌ってほしい?」。森田さんは私に尋ねた。これは珍しいパターンだ。自分で歌いたいものを歌って、他人にも何か歌えと盛り上げ役を強要するのがよくあるパターンだけど、独演会を好むということは、本当に歌うのが好きなのだろう。私はMr.Childrenの「innocent world」をリクエストした。森田さんが歌う間、なんやかんや盛り上げ、最後の「イノセントワ~ルド」のくだりはなぜかみんなで合唱する。カラオケが始まると、急に昭和のスナックっぽさが増した。

私は「カラオケかぁ、嫌だな」と働き始めの頃は思っていた。というのも、人をうならせるほど歌がうまくないし、かといって人を笑わせられるほど下手でもない。定番の盛り上がる曲やおもしろい曲、爆笑できる合いの手なども知らないという、一番使えないレベルだからだ。でも、ホステスとしては「いやー、歌いません」という選択肢もない。

Club Amsterdamではカラオケをするお客さんは多い。次第に気がつき始めた。カラオケの最中はしゃべらなくて済むし、隣に座るお客さんにセクハラされる可能性も劇的に減る。酔っ払うと自分たちだけで歌いまくるお客さんもいるので、放っておける可能性も増える。だからカラオケは案外、楽だ。

森田さんは、確かに歌がうまかった。おなかから低く安定して響く声で、リズムを外すことなく、堂々と歌う。カナちゃんリクエストのシャ乱Q「シングルベッド」、そして、十八番の長渕剛「乾杯」で締めくくった。森田さんはお会計300ユーロ(約5万5000円)を払い、「もう1曲歌いたいなぁー」と言う。「今度ねー!」と、カナちゃんがすかさず返事をし、半ば強引に追い出す。この流れは、いつものことのようだ。

お見送りをした後、カナちゃんが言う。「あの人、前は、来て飲んで歌ってすぐ帰ってたのに、多分寂しいんだと思うんです。最近ズルズルお店にいるんで」

翌朝、10時頃に起きてシャワーを浴びる。伸びてきた髪の毛を洗いながら、ミスチルを口ずさんでいる自分に気がつく。