ディズニーやコストコの事例から考える「待ち時間」を価値に変える仕組みとは
ディズニーやコストコの事例から考える「待ち時間」を価値に変える仕組みとは

小売業の競争は「需要を予測する力」から「需要を早く掴む力」へ変わりつつある。本連載では、トヨタ自動車で生産技術や工場経営に携わり、流通・食品の現場革新に取り組むBeyond Norms代表の福山弦氏が、従来の店舗運営の常識を問い直す「3つのやめる」を解説する。

「3つのやめる」とは

店頭での欠品を防ぐために商品を多く用意すれば、売れ残りや廃棄が増えかねない。反対に、廃棄を減らそうと生産や発注を抑えれば、売り逃しにつながる可能性がある。小売業にとって、欠品と廃棄の削減は簡単には両立できない課題だ。

これまで本連載では、小売業が欠品と廃棄を減らし、売上を伸ばすために「やめるべき3つのこと」を解説してきた。発注量をあらかじめ決めるのをやめ、売れた分を補充する。1点を当てにいく予測をやめ、幅を持たせて考える。そして、需要が見えるのを待つことをやめ、先回りする。

しかし、こうしたやり方だけを実行しても、現場ではなかなか広がっていない。人手が足りない総菜売り場では、売れ行きに応じて商品を追加で調理すると、現場の作業負担が増える。総菜は、まとめて調理することでコストを抑えられる。切りやすい材料を必要な分だけ小口で仕入れるのも難しい。廃棄を多少減らせたとしても、それだけでは仕組みを変えるための投資に踏み切れない。理屈は分かっていても、現実的には難しい。そんな事情を抱える現場も少なくないだろう。

成功に導く2つの条件

一方で、この壁を越えつつある事例もある。そこからは、成功に向けた2つの条件が見えてくる。一つは、廃棄削減だけにとどまらず、売上増加などの新たな価値を生むこと。もう一つは、現場が抱える問題を解消することだ。最終回となる本稿では、この2つの条件を踏まえ、事例から「需要を早く掴む力」(=「需要の先回り」)を現場で実現するためのヒントを探る。

待ち時間を「新たな価値」に変える仕組み

注文から受け取りまでの時間を、顧客にとって別の価値ある時間に変えている3つの事例を見てみよう。

東京ディズニーリゾートは、パーク内の好きな場所から対象レストランのメニューを注文できるサービス「ディズニー・モバイルオーダー」を2023年11月から始めた。来園者はアプリで店舗や来店時間、メニューを選んで注文する。指定した時間に店舗へ行き、アプリで到着を知らせると、商品を提供する準備が始まる。来園者は、レストランで注文するために列に並ぶ必要がなく、指定した来店時間までアトラクションやショーを楽しめる。

企業が提供するサービスだけでなく、顧客自身が工夫して待ち時間を有効活用している例もある。米国発の大規模小売店であるコストコでは、入店後すぐにフードコートでホールピザを注文し、買い物と会計を済ませてから受け取る方法が、利用者の間で知られているという。ピザが焼き上がるまでの時間に、買い物の時間を重ねるという工夫だ。

中国のIT大手、アリババグループが展開するスーパーマーケット「盒馬鮮生」(フーマー)では、客が売り場で選んだ海鮮類などを店内の厨房(ちゅうぼう)で調理し、提供するサービスを展開。客は調理ができるまでの間、店内で買い物などを楽しみ、呼び出し用の端末が鳴ったら調理を受け取る。

3つの例に共通するのは、顧客の注文を起点に調理を用意し、受け取りまでの時間を有効活用していることだ。こうした仕組みは、需要を見込んで大量に作り置きする方法を見直すヒントにもなる。

ディズニーではアトラクションやショー、コストコでは店内での買い物に、それぞれ待ち時間を充てられる。顧客が施設内で過ごす時間を有効に使えれば、飲み物やサラダ、日用品など、ほかの商品を追加購入する機会も生まれるだろう。つまり売上増につながる可能性があるのだ。

国内でも見られる効果

国内でも、できたての商品が買い回りを生むことを示すデータが出ている。セブン-イレブン・ジャパンは2025年1〜3月、埼玉県の29店舗でできたて商品を拡充するテストを実施し、売上高が平均3.2%、客数が4.2%増えたと説明している。同社の担当役員は「サラダやおにぎりと一緒に購入するなど、買い回りも一気に増えた」と述べている。2026年10月の決算会見でも、店内調理のできたて商品が既存店の売上高を0.9ポイント押し上げたとしている。

単体の売り上げや効率だけではなく、施設全体で顧客の時間をどう使ってもらうか。その視点が、待ち時間を新たな価値に変える鍵になりそうだ。