日本SFの古典的名作の出版と配信が停止され、話題となっている。集英社文庫編集部は8月25日付で、広瀬正さん(1924~72)の「マイナス・ゼロ」など6作品について、出版と配信を止めたと発表した。理由は著作権をめぐる手続きミスだった。
著作権継承者不明で裁定制度を利用
集英社文庫編集部によると、広瀬さんの著作権をめぐっては、広瀬さんの没後に著作権を継承した人が亡くなって以降、継承者不明となっていた。そこで、集英社は広瀬さんの著作を残すため、著作権者が分からない場合などに作品を利用できる著作権法上の「裁定制度」を利用した。
裁定制度では、利用を希望する側が、発行部数やダウンロード数などを文化庁に申請する。文化庁長官による裁定を受けた利用者は、部数などに応じた補償金をあらかじめ納めれば、作品を利用できる。
販売数の上限を超えて販売
「マイナス・ゼロ」の書籍については2016年に、2千部を申請し、19年に2千部の重版をかけた。その後、24年に再度2千部の重版をかけたが、この分の申請をしておらず、裁定を受けた販売数の上限を超えて販売された。部内で情報共有が不足していたことが原因という。
電子では、同作を含む「ツィス」「エロス」「鏡の国のアリス」「T型フォード殺人事件」「タイムマシンのつくり方」の計6作品について裁定を受けたが、いずれも超過していた。
今後の出版・配信は「未定」
発表を受け、X(旧ツイッター)ではタイムトラベル小説の名作「マイナス・ゼロ」などに注目が集まった。今後、再び出版や配信をするかについては、「未定」という。
文化庁は、今回の事案は外形的には著作権法違反にあたるものの、故意ではなく人為的なミスとみている。集英社には口頭で注意をしたという。
現状では、文化庁長官が裁定した後に、裁定通りにお金を支払っているかや、販売数が超過しているかどうかを文化庁側が確認する仕組みはなく、利用者側に委ねられている。



