駒込中学校高等学校(東京都文京区)は、グローバル教育の一環として中学3年生を対象にフィリピン・セブ島での語学研修を実施している。高校進学前の春休みに行われ、マンツーマン中心の英語授業に加え、現地の貧困地域での交流プログラムも盛り込まれているのが特徴だ。
英語と並行してセブの現状を学ぶ2本立て
同校の海外研修には、中1から中3まで(一部高1含む)参加できるハワイスタディーツアーと、中3のみを対象としたセブ島語学研修がある。ハワイの研修以上に学習面の要素を強めた形で2016年3月から始まった。
英語教育責任者の角田淳副校長は「セブと聞くと観光スポットのイメージがあるが、一方で貧困地域もある。そういった実情を生徒に理解してもらうことは、語学の勉強と並行して必要な知識だと考え、スタートした」と語る。
「まずは英語の4技能(聞く、話す、読む、書く)をもっと膨らませたいという狙いがある。あとはコミュニケーション能力の充実。生徒同士や私と生徒で英語の会話練習をしても人工的な感じがしてしまう。そこで、初めて会った海外の方と自然なコミュニケーションができる機会を設けよう、という位置づけだ」
参加対象を中3生に絞った理由について、角田副校長は「中学から高校に進学する節目に、通過儀礼のようなことがあったほうがいい」と考えている。内部進学生の場合、高校受験を経験しないからだ。「内進生には高校入試と同じ内容の進級テストを受けさせているので、勉強はしないといけないが、セブ島語学研修を通して、英語はコミュニケーションの道具なんだということを伝えてあげたい。英語が通じたときの感動が、自ら進んで英語を勉強しようと心のエンジンが動き出すきっかけになればいい」
生徒のレベルに合わせた1日8コマの英語授業
2025年度のセブ島語学研修は、3月22日から30日にかけて8泊9日の旅程で実施された。初日の22日と最終日の30日は移動日。英語の学習プログラムは23日から27日までの5日間、28日と29日には異文化交流とアクティビティーに取り組んだ。
学習プログラムでは、現地の講師による1日8コマのマンツーマン授業とグループ授業が行われた。1コマあたりの授業時間は約50分。8コマのうち6コマがマンツーマン、2コマがグループという配分だ。
「まず23日の午前中にレベルチェックテストがあった。テストの難易度は一見すると高校生レベルだが、講師の方が各生徒のレベルに合わせて指導してくださるので、授業についていけないことはない」
2025年度の研修に参加した現高1生の2人は、英語検定準2級を取得していたが、そこまで英語は得意ではなかったという。工藤勇輝君は「マンツーマン授業では1対1で話すので、初めは緊張した」と振り返る。「講師の方は1コマごとに次の方と交代するので、限られた時間の中で話さなければいけなかった。授業内でやらないといけない教材もあったが、講師の方が『最初から教材だと大変だよね』と雑談をしてくれて、楽しかった」
樋口茉彩さんは「人見知りしないタイプなので、最初から楽しく授業を進められた」と言う。「講師の方も明るく接してくれて、会話が弾んだ。でも1日8コマも授業があるのは正直大変だった」
グループ授業では生徒4~6人に対して講師が1人つき、レクリエーション感覚で英会話に取り組む。「自己紹介のとき、みんなで自分の名前の由来を話した」と工藤君。「僕の名前だと『勇』ましいに『輝』く。なので『Brave and Shining』と言ったら『Wonderful Name!』と言われて、面白かった」
樋口さんも「講師の方が『疲れたよね。じゃあ踊ろう』みたいな感じで、みんなでユーモアあふれるダンスを踊った」と笑う。「『I Love Cebu』っていう曲があって、講師の方がダンスを見せてくれた。すごく面白くて、クセになる曲なんです」
孤児院訪問とアイランドホッピング
28日の異文化交流ではセブ島の孤児院を訪問し、主に同世代の子どもたちと触れ合った。工藤君は「現地の子たちは自分たちよりも英語が話せて驚いた」そうだ。「趣味を聞いたらピアノだったり、ゲームだったり、サッカーだったり、僕たちと似ていて親近感が湧いた。現地の子たちが『I Love Cebu』を踊ってくれたので、僕たちは中学体育祭で取り組んだソーラン節を披露した」
「みんなすごく明るくて、仲良くしたいよ、みたいな雰囲気だった」と樋口さんも子どもたちとの交流を楽しんだ。「フィリピンでは日本人がモテるらしくて、現地の女の子たちが男子にメロメロだった。『話しかけたい。どうしよう』って恋愛相談してくれる子もいて、すごくかわいかった」
29日のアクティビティーでは、マクタン島から船に乗り、島を渡り歩くアイランドホッピングを体験。オランゴ島では海に入ったそうで、2人は「バナナボートが楽しかった」と口をそろえた。
英語の4技能が上がったことを実感
セブ島語学研修を終えて、2人の英語力はどのように向上したのか。工藤君は「英語を話す力は以前と比べて断然よくなった」と自信をのぞかせる。「学校の授業に『Engoo』というオンライン英会話の教材を使う時間があって、セブに行く前はたどたどしかったが、最近はちゃんと話せるようになった。帰国してからは、とっさに出る文法を鍛えるために毎日英語で日記を書く習慣をつけて、今も継続している」
一方、樋口さんには研修前に体験した苦い思い出があるという。「セブに行く前に、アメリカ人の方から話しかけられたことがあった。当時はネイティブの英語が聞き取れなくて、うまく話せなかったのが、すごく悔しくて。でも今は、英語を聞き取る力と読むスピードが上がったなと実感している。あと研修中に、現地の人から『発音がキレイだね』と褒められたときは、すごくうれしかった」
角田副校長は「英語でうまくしゃべれない悔しさと、通じたときの喜びを、中学生の段階で経験することはとても大切」とうなずいた。加えて、もう一つの狙いである「地域社会の現状に触れること」について次のように語る。「セブの現状として、まず宿泊したホテルの周りはトタン屋根の家ばかり。車優先の社会なので横断歩道は少なく、信号のない交差点がとても多い。また、家庭では子どもが5人以上いるのが当たり前。しかし養い切れず、下の子を育児放棄してしまうことが現実にあるそうだ」
孤児院訪問を研修に組み込んだ当初は、角田副校長自身、「生徒へのショックが大きすぎるのでは」という不安を抱いていた。しかし実際に出かけてみると、現地の子どもたちは明るく、和気あいあいとコミュニケーションが取れた。「保護者がいない子たちの話を生徒にしてあげると、自分たちはなんて恵まれた生活をしているんだ、とわかる。すると自分の親に対する見方や普段の食事に対する考え方が、研修の前と後では変わっているはずだ。そうした世界の現実を知ることも、立派な学習かなと思っている」



