石鎚山お山開き、仁智勇の神像背負い断崖の鎖場へ…伝統と信仰つなぐ重み
石鎚山お山開き、仁智勇の神像背負い断崖の鎖場へ

夜明け前の西日本最高峰・石鎚山(1982メートル)に、ほら貝の音が響いた。7月1日午前5時、中腹にある石鎚神社中宮・成就社(愛媛県西条市)の「お山開き大祭」が始まり、神門が開かれた。本社にまつる神像「仁」「智」「勇」の3体を頂上社へ移す神事だ。それぞれ家内安全、産業繁栄、交通安全などの神徳を表す。

境内が明るくなった頃、白装束の信徒が神像を収めた木箱を背負い、神門を通って霊峰の頂へと向かった。夜明け前から石畳を打っていた雨は、いつしか霧雨に変わった。「ご神像が出る時は不思議と雨がやむんよ」。そばにいた年配の男性が、そうつぶやき、手を合わせた。

「ご縁が宝物」と語る老信徒

最後尾から遅れ、両手にステッキを握って歩く男性がいた。宇和島市の岡田広さん(78)。ロープウェーがなかった約60年前から、石鎚山に登り続けているという。「山開きではいろんな人に出会う。そのご縁が私の宝物」と笑った。一方、「昔は列が途切れることがないくらい、たくさん人がおった。宇和島からも大型バス3台で来ていたが、今年は12人。若者はおらんなってしもうた」ともこぼした。

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登山道の傾斜が一段と険しい場所に差しかかると、「ここからは危険だから、引き返します」と立ち止まった。85歳までは頂上に登るつもりだったが、病気をして、足も悪くなったとのこと。「頑張って登ってください」と記者に声をかけ、来た道をゆっくりと戻っていった。

難所の鎖場をよじ登り、頂上社で歓喜

木々を抜けて視界が開ける「夜明かし峠」では、霧の中を白装束の列が一本の線のように連なり、難所の「鎖場」では、信徒が垂らされた鎖を使い、断崖をよじ登った。出発から約4時間。到着した頂上社の付近は雲に覆われ、雨風が吹き荒れていた。凍えるような寒さにもかかわらず、信徒たちは歓喜に沸き、胴上げを繰り返していた。

その様子を静かに見守っていた信仰組織「中予崇敬組合」の組合長、宮内浩一さん(63)は「この日だけのことやったら人は集まる。普段の運営までとなると、なかなかいない」と明かし、「でも、誰かが信仰をつないでいかんといけんのです」と力を込めた。

途中で引き返した岡田さんの言葉が頭に残る。「(お山開きの)伝統がこれからも続きますように」。先人から受け継いだものを次代に託すことの重みを感じた1日だった。(井上学)

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