秋田市の街中で、たたんだ提灯の束と竹竿を運ぶグループを見かける季節がやってきた。「秋田竿燈まつり」の近づきを告げる光景だ。この祭りで、提灯が鈴なりになった竿を掲げる名人芸を披露するのは、地元大学の学生たちも含まれているという。現代の若者たちが、なぜこの伝統に熱中するのか。秋田県立大学まで足を運んだ。
全長12メートル、重さ50キロの竿を操る学生たち
「どっこいしょー、どっこいしょー」。かけ声とお囃子が響く体育館で、男子学生が手のひらに竹竿を載せ、高々と掲げた。46個の提灯が下がった全長12メートルの竹竿は、重さ約50キロ。バランスを取るたびに提灯が一斉に揺れる。
秋田県立大学竿燈会は、1~4年生と大学院生の約70人で構成され、男女比は2:1。代表の横須賀泰也さん(20)は「メンバーの8割以上が県外出身者です。最大の行事は秋田竿燈まつりで、イベントなどでも技を披露しています」と話す。県立大全体の県外出身者割合(7割)を上回る数字だ。横須賀さん自身も茨城県出身。各地から集まった学生たちにとって、竿燈は特別な魅力を持っているようだ。
五つの技とお囃子、継承される伝統
秋田竿燈まつりは毎年8月3~6日に開催され、70近くの団体が参加、観客は100万人以上。270年以上前の江戸時代に始まり、国の重要無形民俗文化財に指定されている。演技者は「差し手」と呼ばれ、五つの技を披露する。「流し」「平手」「額」「肩」「腰」の順に難易度が上がり、最も難しい「腰」は全長12メートルの竿を腰で支える。演技中に竹を継ぎ足して竿を延ばしていくのも見どころだ。
お囃子は「流し囃子」と「本囃子」の二種類。差し手と囃子方に分かれて練習する。差し手のメンバーは約40人で、新入生は両手で支える練習から始め、3年生までにほぼ全員が五つの技を習得する。のみ込みの早い学生は1年生で「腰」ができるようになるという。
上達の証は足運び、筋肉もつく
差し手代表の高瀬悠真さん(20)は「とにかく竿を上げて慣れることが大事。バランス感覚が大切で、体が細くてもできますが、練習を続けると利き手の筋肉が大きくなります」と語る。上達すると、バランスを取る際に「すり足」で移動するため、足運びを見ればすぐに分かるという。高瀬さんは宮城県出身で、先輩に勧誘されて竿燈会に入った。「すぐに竿を持たされ、うまくできなかったのに『うまい、うまい』と乗せられて入ってしまいました。技が決まった時や観客から『すごかったよ』と声をかけられた時、入って良かったと感じます」と笑顔で振り返る。
囃子方も入学後に始めた学生が多い。囃子方代表の田中響子さん(21)は静岡県出身。「秋田竿燈まつりは他のイベントとは規模が違う。特別な雰囲気を新入生にも経験してほしいので、出演できるレベルになるまで教えます」と話す。太鼓は腕や手首の使い方から指導し、一定のテンポで叩く練習を繰り返す。笛は息の入れ方や指の使い方を教え、正しい姿勢を身につけさせる。
お囃子にも個性、祭りごとに異なる音色
笛代表の工藤沙耶花さん(20)は青森県出身で、ねぷたの笛を吹いた経験がある。「竿燈の笛はねぷたより長く、音の出し方も音色も違います。ねぷたは複数人で吹きますが、竿燈は一人。自分が演奏する時間は自由に吹けるので、『こっちを見て』という気持ちでやっています」。演奏者の個性が発揮されるお囃子も、竿燈まつりの見どころだ。
原動力は使命感より達成感
少子高齢化で各地の祭りは担い手不足に悩む。秋田竿燈まつりも小学生向け講習会を開くなど、将来の担い手育成に取り組む。県立大竿燈会のメンバーは伝統継承の使命感で活動しているのかと思いきや、代表の横須賀さんは「演技をやり切ったときの達成感が楽しいんです」と語る。スポーツや演劇に打ち込む若者と同じような言葉だ。取材中、何人かの学生が「祭りの会場で見かけたら声を掛けてくださいね」と屈託なく言ったのを思い出す。伝統芸能を継承する原動力は、小難しい理由ではなく、祭りに心を弾ませる純粋な気持ちなのかもしれない。



