「平行と垂直」映画評:兄妹の絆描く“みんなの映画”に
「平行と垂直」映画評:兄妹の絆描く“みんなの映画”

「平行と垂直」(8月28日から全国公開)は、長年支え合って生きてきた兄妹が、新たな一歩を踏み出すまでの物語。自閉スペクトラム症(ASD)の兄・大貴を安田章大、その妹・希をのんが演じている。タイトルは、この兄と妹のありようを指しているようだ。ふたりが描く人生の道筋は交わらないようでいて、ちゃんと交差して、互いの支えになっている。

監督・脚本と企画の経緯

監督は、「毎日かあさん」「マエストロ!」などで知られる小林聖太郎。原案・脚本は山野海。大貴役の安田が、山野によるオリジナル脚本に強く心動かされ、製作側に持ちかけた企画だという。

主な舞台は大阪。ASDの兄は清掃の仕事に就き、周囲のサポートを受けながら自立した生活を送っている。妹はカウンセラー。別々に暮らしているが、毎週水曜日には兄が作った晩ご飯を彼のアパートで一緒に食べる決まりだ。

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物語の展開と演技

幼い頃、父親は家族をなおざりにした。母親は亡くなった。現在の日常があるのは、ふたりがこれまで支え合って生きてきたからだ。だが、妹が恋人(伊島空)からプロポーズされたのを機に、ふたりは「これから」を改めて見据えることになる。妹の恋人の東京の実家に一緒にあいさつに行くことになったのだが、その前に波風が立つ。

軸となる物語はシンプルだが、その分、この映画は人の姿、そして、一筋縄ではいかない人の情をたっぷり丁寧に見せる。安田は、兄・大貴の一挙一動、そしてその奥に隠れている心の揺らぎを丁寧に演じ、凝視を誘う。妹・希役ののんも、さすが。見せ所たっぷりの安田に比べれば、受け身のようにも見えるが、さにあらず。相手の演技を受け止めて包み込む器の大きさがこの人にはある。

作品の魅力と評価

小林監督の映画には独特の魅力があって、食べ物にたとえれば、すこぶる上等なおまんじゅうのようだと思ってきた(本作の食べ物になぞらえれば、おにぎりと言うべきか)。役者たちの持ち味を生かして丁寧に作り上げられている。

気取りはないが、品がある。会話シーンは、くすくす笑いを喚起する人間くささが隠し味。人とそれを映し出す映像(撮影・大塚亮)は親しみやすくて、なおかつ端正。横のものは横に、縦のものは縦にしておきたい大貴の日常の軌跡は、もはやアート……。子どもから老人まであらゆる人を楽しませ、なおかついろいろ考えたい人もうならせる、“みんなの映画”になっている。

主人公の兄妹ふたりの物語は、最初のうちは、よそのうちの話。当然だ。実際そうなのだから。でも、少しずつ、みんなの話になっていく。大体のことはわかっているが、わかっていることを表すのが苦手――。これは、ある人物が大貴について説明する言葉。でも、大貴以外のみんなはちゃんと表せているのだろうか。実は、そうでもない。

だからじたばたする。分かり合えない部分があるけれど、なんとかしたくて。ましてや家族になろうとするならば。では、どうすればいいのか。いつしか、映画の中のみんなの物語は、観客誰しもにとって切実なものになっている。徹頭徹尾、丁寧に作られている。主題歌「話そう」も、映画の物語と歌詞が相まって、しみじみと心に残る。

上映時間は118分。製作は「平行と垂直」製作委員会(東映ビデオ、アスミック・エース、メディアプルポ、中京テレビ、テレビ大阪、ストームレーベルズ、ローソン、東映シーエム)。制作プロダクションはセントラル・アーツ。製作幹事・配給は東映ビデオ。8月28日から全国公開。

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