織田裕二、青島俊作への本音「好きすぎた」葛藤と再演への願いを告白
織田裕二、青島俊作への本音「好きすぎた」葛藤と再演への願い

1997年の連続ドラマから始まった「踊る大捜査線」シリーズが、映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』(9月18日公開)としてスクリーンに帰ってきた。織田裕二演じる青島俊作は湾岸署を離れ、警視庁捜査第一課へ。世界屈指の巨大都市・東京を舞台に、所轄と本庁の垣根を越え、変わらぬ信念を胸に現場を駆け回る。

『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012年)から14年。織田はなぜ、再び青島を演じることになったのか。

「好きだったんですね、この作品やキャラクター、みんなが」

織田にとって「踊る大捜査線」は、連続ドラマの頃から思い入れの深い作品だった。撮影中から映画化を熱望し、それが実現したという。「連ドラはすごく楽しくやっていて、撮影中から映画化したくてしょうがなかったんです。それを訴えて、『THE MOVIE』ができた。そこで一つ満足したんですけど、好きだったんですね。この作品や、このキャラクターや、みんなが」

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

その一方で、「好きすぎた」からこその怖さもあった。織田は1991年放送のドラマ『東京ラブストーリー』で永尾完治、通称“カンチ”を演じ、社会現象を巻き起こした。しかし、その後に届くのはカンチに似た役柄のオファーばかりだったという。「ほかの役もやりたいのに、似たキャラクターしか来ない。2、3年くらい断り続けることになりました。それとまた同じことが起きるのは嫌だな、という思いもありました」

一つの役で広く認知されることは、俳優にとって大きな喜びであると同時に、その後の可能性を狭めることにもなり得る。青島が長く愛される喜びと、俳優・織田裕二が青島だけで語られてしまうことへの恐れは織田自身にもあった。

それでも、映画第1弾『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年)の約5年後には、『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年)が公開され、興行収入173.5億円を記録する大ヒットとなった。その後、22年間にわたって邦画実写1位の座を守り続けた。

さらなる続編も思い描いていたが、翌2004年、和久平八郎役のいかりや長介さんが亡くなった。織田はその時点で、「踊る」はもう続けられないと一度は覚悟したという。

和久さんの席を見るのがつらかった

『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』から年月が流れ、再び「踊る」をやりたいという話が届いた。だが、織田には簡単に踏み出せない理由があった。「湾岸署の強行犯係では、青島の隣が和久さんの席だったんです。そこに別の誰かが座っているのも嫌だし、空席なら空席で和久さんを思い出してしまう。どうしよう、って」

その思いを制作陣に伝えたところ、返ってきたのは「引っ越す」という大胆な提案だった。2010年公開の『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』で描かれた湾岸署の引っ越しには、いかりやさんを失った織田の思いも反映されていた。大切な仲間を欠いた喪失感は消えない。それでも織田は、「大好きなものだし、もう一回エンジンをかけ直すぞ」と撮影に臨んだという。

3作目と4作目は物語がつながっており、今度は大きく間を空けずに制作すると聞かされていたが、4作目が最終章をうたう『THE FINAL』になることは、当初知らなかったという。再び動き出したばかりだと思っていたシリーズが、なぜ終わるのか。織田の中には、納得しきれない思いが残った。「もしかしたらネタが尽きたのかなとか、いろいろ考えたんです。なんでやめちゃうんだろう。別に失敗しているわけでもないし、また5年後にやればいいじゃないって」

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ

制作陣の事情もあるのだろうと考え、いったんは「しょうがない」と受け止めた。それでも、完全には諦めきれなかった。「僕が和久さんぐらいの年になったら、またやらない?って言ったような気がするんですよね。定年間際の青島、そんなのも見てみたいよねって」

いつか年齢を重ねた青島を演じる――。その時点で実現の約束があったわけではない。しかし、織田の中では、青島の物語は終わっていなかった。

『踊る』をやらないと聞いて「ちょっと残念」

月日が流れ、織田は刑事役のオファーも引き受けるようになった。最初に出演したのは、NHKドラマ『ガラパゴス』。社会派の物語であり、「踊る」とは毛色が異なることから出演を決めた。その後、テレビ朝日系ドラマ『シッコウ!!〜犬と私と執行官〜』のプロデューサーから、再び一緒に仕事をしないかと声をかけられた。50代を迎えた織田が“新人”の執行官室事務員を演じた同作は、新鮮な挑戦だった。次はどんな企画だろうと期待したところ、提案されたのは青島とは真逆の“走れない刑事”役だった(今年6月27日にテレビ朝日系列で放送されたスペシャルドラマ『ダブルエッジ〜甦った男』)。

刑事役と聞いて、織田の頭に浮かんだのは、やはり「踊る」だった。「ちょっと引っかかるので、『踊る』はやらないよね、と確認してもらいました。やらないみたいだと言うから、引き受けることにしました」そこで胸に浮かんだ感情を、織田は率直に「ちょっと残念だった」と打ち明けた。「もう『踊る』をやらないのなら、別のドラマで自分の好きな青島のようなキャラクターを演じてもいいかな、というぐらいの気持ちでいました」

青島のイメージがつくことへの葛藤はあったものの、青島を演じること自体を嫌っていたわけではない。シリーズがもう動かないのであれば、青島に通じる人物像を、別の作品で受け継いでもいいと思うほど、織田にとって大切なキャラクターだったようだ。ところが、その作品が動き始める段階になって、「踊るプロジェクト」再始動の知らせが飛び込んできた。

『室井慎次』始動を知った時の戸惑い「青島の出番ないの?」

「室井さんを主人公に『踊る』が再始動することを知った時、『室井さんだけでやるんですか?』と驚きましたね」関係者に連絡をとり、完成しているなら脚本を見せてほしいと頼んだ。そこで初めて、室井が亡くなることを知ったという。真下正義を主人公としたスピンオフ作品に青島が登場しないことなら理解できる。しかし、長年にわたり同じ志を共有してきた室井が亡くなる物語に、青島の出番がないことには戸惑いがあった。「物語の結末にびっくりして。『ちょっと冷たくない?』って。しかも、室井さんが死ぬのに、俺の出番がないって。ちょっとぐらい何かないの?と言ったら、最後に付け足すような形で出番をいただきました」

もっとも、『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』は、これまでの「踊る」とは異なり、秋田を舞台に、警察官を辞めた室井の静かな暮らしを描いた作品だった。織田は今なら、青島の登場が限られた理由も理解できるという。そして、『室井慎次〜』への出演が決まると同時に、青島の新たな物語が構想されていることも伝えられた。かつて自ら口にした「和久さんぐらいの年になったら」という言葉が、現実になろうとしていた。

室井を失った青島は、何を信じて走るのか

最新作の脚本を待つ中、織田が最も気にかけていたのは、室井を失った後も、物語の核となる“縦軸”が残されているかということだった。青島と室井は、置かれた立場こそ違っても、警察組織をより良くしたいという志で結ばれていた。現場を走り続ける青島と、組織の上から改革を目指した室井。その関係性は、「踊る」の物語を支える大きな柱だった。

「ちょっとした笑いやエキサイトする部分はどうにでもなるんだけど、一番頼りにしている核の部分、青島なりの信念はどうなっているのか、ということが気になっていました」青島は室井に呼ばれ、警視庁へ異動した。ただ昇進を喜ぶような年齢ではない。室井が青島を必要とし、警察組織の改革をさらに進めようとしたからこその異動だったはずだと、織田は考えていた。しかし室井は志半ばで警察を辞め、故郷の秋田へ帰った。そこで事件の被害者や加害者の家族を支援する道を選び、不慮の事故で亡くなった。

「じゃあ、2人はどんな会話をしたんだろうって。室井さんが何かで勝負をかけた時に、たぶんうまくいかなかったのかなとか、いろいろ考えられる。僕が知りたかったのは、その核がどうなっているのか。この空白の何年か、室井さんがいなくなってからも警視庁に残っている青島は何を感じているのか、ということでした」脚本を読み、織田が見つけた答えは、青島が「孤独だった」ということだった。キャリア組を中心とした警視庁の中で、青島は信頼できる仲間をつくることができなかった。それでも現場に立ち続ける中で、青島なりの答えにたどり着いていく。

「偉くならなくたって、正しいことはできる」

「正しいことをしたければ偉くなれ」――。和久が青島に諭した、シリーズを象徴するせりふだ。その言葉は青島から室井へと伝わり、組織を変えるという2人の約束につながっていった。組織の上層部から改革を目指した室井と、現場に立ち続けた青島。2人はそれぞれの場所から、正しいことができる警察組織を作ろうとしてきた。しかし、室井は頂点までたどり着くことなく志半ばで警察を去った。

新作で描かれる青島の姿から、織田は、かつて和久から託された言葉に対する一つの答えを受け取った。「青島がやっと見つけたのは、『偉くならなくたって、正しいことはできるよ』ということなんじゃないか。かつて言われたこととは、結局逆だったんじゃないかと思うんです」これはあくまで自身の解釈だと断った上で、織田は、組織の中で上へ進むほどしがらみが増え、正しいと思うことを貫くのが難しくなるのではないかと語る。では、偉くならずに、今いる場所で正しいことをするにはどうすればいいのか。

どれほど強い命令が下されても、組織を実際に動かしているのは現場で働く一人ひとりだ。理不尽な命令にただ従うのではなく、それぞれが自分で考えて行動すれば、現場から組織のあり方を変えることもできる。織田は、劇中で青島が発する言葉を、そんな現場の人々に向けた呼びかけとして捉えている。「一部の人にはまったく響かないでしょう。ある程度の人には2週間ぐらい響くかもしれない。一人、二人ぐらいには、ずっと深く残るかもしれない。僕は今、そう思っています」

青島の言葉によって、誰もが動き、組織がすぐに変わるわけではない。理想を掲げても、その先には厳しい現実が待っている。それもまた、「踊る」が一貫して描いてきたものだ。「『踊る』は夢を語っても、その先に現実が待っている作品。甘くないんですよね。それがどうなるのか、この先も知りたいし、空白も埋めたい。僕もまだ知らないので」

青島俊作という強烈なイメージに葛藤しながらも、織田はいつか再び演じることを願っていた。室井を失い、定年も見えてきた青島がたどり着いたのは、偉くなることだけが正しいことをする道ではないという新たな答え。14年の空白を経て始まるのは、かつての青島をそのまま再現する物語ではない。年齢を重ね、孤独と喪失を経験した今の青島が、もう一度、自分の足で現場を走り始める物語だ。