俳優の織田裕二が14年ぶりに青島俊作を演じる映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』が、9月18日より公開された。湾岸署から警視庁捜査第一課へ移った青島は現在58歳。それでも「捜査は足だ」という信念は変わらず、東京の街を走り回る。
ただし織田は、かつての青島の若々しさを再現するのではなく、年齢を重ねた今の姿をそのまま見せようと考えた。
「58歳になって、若者と変わらないように走っていても面白くない。年を取ったことを表現したい。だから走るのはいいとしても、ダサく走るよって」
自分のいろいろな部分を、青島にぶち込んでいる
青島は、織田と同じ生年月日に設定されるなど、本人の一面を色濃く映したキャラクターでもある。そんな青島を14年ぶりに演じ、織田は仲間と芝居をつないでいく喜びと、ファンに支えられてきた「踊る」の力を改めて実感した。
青島は、織田がそれまで演じてきた役とは、生まれ方から少し異なっていた。『東京ラブストーリー』の永尾完治、『振り返れば奴がいる』の司馬江太郎、『お金がない!』の萩原健太郎など、作品ごとに異なる人物になりきってきた。役が支持され、その名前で呼ばれることはうれしい。しかし同時に、役だけではなく、織田裕二のファンになってほしいという思いもあった。
「作品のたびに、ライブでかけられる声が変わるんです。うれしいんですよ。その役を見て来てくれたんだから。でも毎回変わるので、一つベースになるものが欲しいなと思った。それまでは、自分とは違う人物になろうとして、作品ごとにまったく異なる役を演じてきました。だから今度は、少し自分に近い役を作ってみたい。そう考えていた時に出会ったのが、青島だったのかもしれません」
生年月日だけでなく、青島がかつてコンピューターシステム会社に勤めていた設定にも、当時まだ一般家庭では珍しかったパソコンを織田が使っていたことが反映されているという。
58歳の青島を若くは見せない
織田自身の要素を取り込んで生まれた青島。その役を演じる中で、織田はチームで作品を作る喜びも思い出した。それ以前の織田には、「一人で頑張ろう」と考えていた時期があったという。作品に懸ける熱量をチーム全体でそろえることは難しい。自分だけが熱くなり、周囲との温度差を感じたことも。「自分は一人で全力で走っていく。ついてくる人は勝手についてきてください」という気持ちになっていた。
一方で、幼少期には野球に打ち込み、仲間と力を合わせる楽しさも知っていた。高校時代にはバンドを組み、趣味も考え方も異なる人たちが集まって、一つのものを作り上げる面白さを経験した。織田の中には、一人で戦おうとする自分と、チームで何かを成し遂げることを楽しむ自分の両方がいる。
「孤独で戦うのも分かっているし、チームプレーの良さも分かっている。体育会系的な部分と、それが大嫌いな自分の両方を持っています」
組織の規律に従う感覚と、仲間と自由に動くことを好む感覚。その両方が、青島というキャラクターにも反映されているという。
「本庁の人たちと向き合う時の青島には体育会系的な自分が、所轄の仲間といる時の青島には自由な自分が出ている。自分のいろいろな部分を、青島にぶち込んでいるのかもしれないですね」
新作で青島は、定年を意識する年齢になった。脚本を待ちながら織田が想像していたのは、かつての和久のように、若者がその場では理解できなくても、後になってかみしめられる言葉を残す青島だった。
「和久さんを踏襲しつつ、青島らしさが出るような本が来るのかなと思っていました。若者にはその瞬間に通じなくても、後になってかみしめてもらえるような、噛めば噛むほど味が出るせりふを言うのかなって。どんなせりふだろうとワクワクしていたら、ひたすら走るのか、と(笑)」
脚本には、巨大都市・東京を駆け回る青島の姿が描かれていた。
「いやいや、ちょっと待ってよ、と。和久さんが走っているところなんて見たこともないし、俺も最近、そんなに走る役をやっていない。家には、体を痛めた時に備えて松葉づえを常備しているぐらい、体はボロボロですから」
映像の力で、若い頃と同じように勢いよく走っているように見せることもできる。しかし、それでは今の青島を描く意味がないと考えた。
「『このためにトレーニングしました』もいらない。もっと58歳なりに蓄積したものを出したい。だから走るのはいいとしても、ダサく走るよ、『えっさ、ほいさ』というリズムで走るからね、と伝えました」
年齢を重ねた事実を消すのではなく、その時間を青島の変化として画面に残す。そこに、14年ぶりに同じ役を演じる意味がある。
世代を超えて集まった“捜査員”
そんな14年ぶりの「踊る」の現場に、織田は仕事という枠を超えて向き合っていた。
「仕事と思っていないんです。もう、これは遊びに行くんだ、俺の趣味です、という感覚で(笑)」
仕事という枠を超え、好きなこととして向き合えば、撮影が終わっても作品について考え続けられる。その純粋な熱量こそが、ものづくりでは最も強いと織田は考えている。
「出演者もスタッフも楽しめる作品だと思います。もちろん、仕事として支えてくれる人もいて助かっていますけど、遊んだ者勝ちというところもあるんです」
今回の撮影で織田が改めて実感したのが、“捜査員”と呼ばれるファンの存在だった。撮影では、「今日は捜査員からの差し入れの日です」と、ファンから現場へ弁当が届けられることも恒例になっているという。
「ファンから弁当の差し入れがある作品なんて、聞いたことないでしょう。それが恒例になっている。すごくみんなに支えてもらっている作品なんです」
新作でも、大勢のファンがエキストラとして撮影を支えた。首都高の渋滞を再現するため、全国から車で集まり、早朝から何時間も撮影に協力した。
「僕らが撮影しているところなんて見えないですし、いつ終わるかも分からないまま、文句も言わずにいてくれる。本当に支えられているなって思っていました」
織田を驚かせたのは、連続ドラマをリアルタイムで見ていた世代だけでなく、後からシリーズに出会ったとみられる若い参加者もいたことだ。
「“捜査員”も年齢を重ねて、おじさん、おばさんがたくさん集まると思っていたら、『あれ、若返ってない?』って。今はいつでも作品を見られる。そこで出会って、面白がってくれた人たちが参加してくれている。すごいなと思いました」
「踊る」を支える“捜査員”が世代を超えて広がる中、積み重ねてきた時間を力に変えた58歳の青島が、どんな物語を見せるのか注目だ。



