映画評「叛逆のサウンドトラック」コンゴ動乱とジャズの抵抗
映画評「叛逆のサウンドトラック」コンゴ動乱とジャズの抵抗

鋭くスリリングなドラム、力強い歌声。ドキュメンタリー映画「叛逆のサウンドトラック」(8月7日公開)は、モダンジャズ史に名を残すドラマーのマックス・ローチ、歌手のアビー・リンカーンが繰り出す音、声とともに幕を開ける。

1960年代前後のアメリカで、ローチとリンカーンは、その活動をアフリカ系アメリカ人の公民権運動と連動させ、人種差別や植民地主義への抵抗を音楽に込めた。そして61年2月、リンカーンは作家のマヤ・アンジェロウら仲間とともに国連安全保障理事会でアクションを起こす。コンゴ共和国(現コンゴ民主共和国)独立の英雄にして初代首相だったパトリス・ルムンバ殺害に抗議するために。でも、なぜ国連へ?そもそもルムンバは、誰になぜ殺されたのか?

ベルギー領コンゴの独立とルムンバ暗殺の背景

ベルギーのヨハン・グリモンプレによる本作は、ベルギー領だったコンゴの独立前後の波乱、動乱、とりわけルムンバ殺害をめぐる動きを軸に、普通の歴史年表ではバラバラに記されている出来事のつながりを鮮やかに浮かび上がらせていく。

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アジア・アフリカの新興独立国での民族自決の動きと、ブラックパワーを提唱したマルコムXのパン・アフリカ主義がつながる。人種差別、植民地主義、東西冷戦、国連の迷走の関連が見えてくる。そして音楽と政治……。何もかもがつながって、つながって、点が線になる。当時の世界のありようが見えてくる。

ルムンバを潰した謀略と現代への二重映し

ルムンバは、反植民地主義、政治的・経済的独立を訴えて、民衆の支持を集めたが、つぶされた。誰に?本作は、豊かな鉱物利権を失いたくない旧宗主国ベルギーや、第三世界諸国のソ連接近を恐れた冷戦下のアメリカの思惑、それを受けて仕組まれた謀略を克明にたどっていく。

観客は複雑な気分にさせられるだろう。見るほどに、当時と今の世界の構図、パワーゲームのメカニズムが、二重映しになって見えてくることに。ただし、世界は変わらないと言うだけの映画ではない。ルムンバの不屈のまなざし、並行して描かれるミュージシャンたちをめぐる描写は観客に示唆を与える。

ジャズ・アンバサダーと音楽家たちの抵抗

本作にはジャズ界のレジェンドたちが続々登場する。そして冷戦下、米政府はルイ・アームストロングらを「ジャズ・アンバサダー」として各国へ派遣し、政治の駒として利用しようとしたことを映し出す。ただ、音楽家たちの目は節穴ではない。この映画の音楽は、時代の後景に沈み込んだりしない。

アメリカでも、アフリカでも、プレイヤーたちはそれぞれのやり方で時代と切り結ぶ。自由を希求し理不尽に抵抗する動きと、それに共振する者たちの音楽は同期していく。中でもローチが刻むドラムビートとリンカーンの歌声は、61年2月の国連安保理でのアクションにつながっていく。叛逆の叫びは歌声のように、歌声は叫びのように響き合う。

歴史のアイコンたちと飛び出す年表

ニキータ・フルシチョフ、フィデル・カストロ、ジャワハルラール・ネール、スカルノ、ドワイト・アイゼンハワー、ダグ・ハマーショルド、マルコムX、そしてルムンバ……。歴史、政治、時代のアイコンたちの軌跡を、アーカイブ映像、テキスト、そして何より音楽を駆使して描く本作は、飛び出す絵本ならぬ、飛び出す年表のような迫力。すさまじいリサーチと編集力。情報の量と密度にちょっとひるむかもしれないが、大丈夫。ついていけないとあきらめるより先に、もっと知りたいと思うはずだから。

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史実のとらえ方、登場人物たちの見せ方は、たんたんとしてフェア。ギニア出身の政治活動家アンドレ・ブルアンら女性たちの軌跡をしかと見せているのもいい。

観客を覚醒させる音楽とメッセージ

もっとも、見ているほうは、たんたんとしてはいられないだろう。自由を求める者たちのまなざしに心射抜かれる。ローチのドラム、リンカーンの声が頭の中で響き続け、覚醒を促す。心がひりひりしてくる。なぜ、世界の構図は変わらないのか。なぜ昨今は、牙を抜かれたような音楽が昨今は耳につくのか。いろいろ考えたくなる。すぐに何かを変えられなくても、変えるべきものを見据えること、変えたいと思うことにはきっと意味があると思う。

サンダンス映画祭の世界ドキュメンタリー部門で審査員特別賞を受賞、米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門の最終候補にもなったパワフルな一作。(編集委員 恩田泰子)

◇ 「叛逆のサウンドトラック」 (原題:Soundtrack to a Coup d’Etat)=2024年/ベルギー・フランス・オランダ/上映時間:156分/日本語字幕:山口三平/配給:オンリーハーツ=8月7日からBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座、UPLINK吉祥寺ほかで全国順次公開