映画『開戦前夜』公開断念せず、製作委が声明 訴訟に反論
映画『開戦前夜』公開断念せず、製作委が声明

31日に劇場公開が予定されている映画『開戦前夜』の製作委員会が21日、テレビドラマ版をめぐる訴訟と映画公開に関する声明を発表した。原告側の「名誉毀損」「歴史捏造」などの主張に対し、作中人物は創作であることや、混同を避けるために講じた措置を説明し、「作品を観客の皆様に届けることを断念する考えはありません」としている。

『開戦前夜』の「板倉大道少将」は創作人物

訴訟の対象となっているのは、NHKスペシャル『シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~』のドラマパート。原告は、作中の「板倉大道少将」が、祖父である飯村穣氏を描いた人物だと主張し、作品の公開阻止を繰り返し公言している。

これに対し、製作委員会は「本作に飯村穣氏は登場しません」と説明。板倉大道少将について、飯村氏とは名前、外見、階級が異なる創作上の人物だとし、作品の公開によって故人の名誉などが侵害されることはないとの見解を示した。

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歴史フィクションの手法と「歴史捏造」への反論

また、限られた史料や記録を基に、当時の人々の声や人生に思いを巡らせて物語を創作することは、歴史を題材としたフィクション作品の一般的な手法だと説明。「史料や記録に基づくフィクション作品を通じて歴史を解釈し、批評的に描くことは、『歴史捏造』や『史実の歪曲』を意味しません」と反論した。

同作は、日米開戦前に設置された総力戦研究所を題材としている。同研究所では、日米戦がどのように進み、日本が敗北していくのかを具体的にシミュレーションし、1941年8月に研究結果を当時の首相や閣僚の前で発表した。

一方で、飯村氏名義の「講評」には、研究生たちが導き出した「日本は敗れる」という結論をそのまま受け止めるものではなく、総力戦の遂行や開戦判断をめぐる当時の国策、軍の論理が表れていたと説明。この講評に研究生たちが憤慨したとの証言もあるという。

着想の源泉と描こうとしたもの

製作委員会は、自由な議論が認められていたにもかかわらず、なぜ開戦へと進んだのかという点に着想を得て物語を創作したと説明。ただし、「講評」という史料に注目したことは、飯村氏を登場人物のモデルにしたり、作中で再現したりしたことを意味するものではないと強調した。

作品で描こうとしたものについては、戦争の無謀さを理解しながらも、国家や時代の空気に逆らって開戦を止めることができなかった社会の「空気」だとした。板倉大道少将も、単純化された人物ではなく、組織の論理に従わざるを得ない現実を理解し、その中で行動する人物として描いているという。

混同回避の措置も協議は成立せず

製作委員会は、作中人物と飯村氏の混同を避けるため、映画版では「所長」という肩書や呼称を使用せず、本編冒頭にフィクションであることを明記するテロップを付けるなどの措置を講じたと説明した。テレビドラマ版、映画版ともに法的な問題はないとする立場を示しながらも、原告側の懸念に可能な限り配慮したものだったという。しかし、原告の納得は得られず、協議は成立しなかったとしている。

製作委員会は、司法の場における判断には従うとした上で、「独自の見解に基づく一方的な主張によって作品の公開が制限されることになれば、この国における歴史、特に近現代史を題材とした表現行為は、題材を含めて著しく制限されてしまいます」と訴えた。

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声明の最後には、「敗戦を予測する合理的な知がありながら、なぜ開戦を止められなかったのか」と問いかけ、戦争へと向かう「空気」の正体や、現代を生きる人々もその空気にのみ込まれないと言い切れるのかを考える作品だと説明。「本作を、今、この時期に公開することに重大な意義を感じる」と結んでいる。

プレミア上映会中止も公開は予定通り

同作をめぐっては、19日に予定されていたプレミア上映会が中止になった。製作委員会によると、14日に行われた試写会で、会場入口付近の公道において訴訟の原告ら数人が拡声器を使った演説やビラ配布を実施。プレミア上映会でも同様の事態が起きた場合、観客や登壇者、映画館などの関係者に迷惑をかける可能性があるとして、開催を見送ったという。

それでも、「予定どおり、2026年7月31日の公開に向けて準備を進めてまいります」としている。