歌手の森山良子さん(63)は、東日本大震災で多くの被災者が家族を失った喪失感を思うとき、若くして亡くなった兄のことが頭に浮かび、涙が流れるという。その悲しみを和らげてくれたのは、あの「名曲」だった。
震災で思い出した41年前の出来事
22歳のときに兄を失った森山さんは、埼玉県内のコンサートホールに着く直前に異常を感じた。3月11日午後2時46分、乗っていた車が大きく揺れ、ホールから人が逃げ出してくる様子を目の当たりにした。翌日に歌手活動45周年記念公演を控え、この日はリハーサルを行う予定だったが、急遽中止となり、公演自体も延期となった。
テレビでは東日本大震災の甚大な被害が映し出され、大切な家族を失った人の喪失感を思うと涙があふれた。同時に41年前のことを思い出し、胸がしめつけられたという。
「何やっている。起きろっ」
昭和45年3月、東京都内の実家では、涙交じりの怒声が響いていた。2階の部屋には、1歳年上の兄、晋(しん)さんが眠るように横たわっていたが、息はなかった。叫び続けていたのは、駆けつけた10人もの兄の友人たちだった。
当時22歳だった森山さんは「ただ呆然としていた。兄貴がいないという感覚が取り込めなくて」と振り返る。歌手デビュー4年目で、コンサートにテレビ出演と休む間もない毎日。訃報は、そんな充実した人生のさなかに届いた。
兄は急性心不全による突然死だった。旅行会社に勤めていた兄は、前日まで元気だったが、翌朝布団の中で冷たくなっていたという。



