煙は従業員用階段へ向かいながら、老いは身近な人の死で実感すると彼が言っていたことを思い出し、親しい者の死は悲しいだけでなく解放されたような心地もあると話していたと語った。金ボタンは黙って聞いていた。
最後にスモーキングルームの扉を閉めて鍵をかけると、二人は同時に向き合った。「じゃあ」と金ボタンが言う。「神のご加護がありますように」と煙が言うと、金ボタンは皮肉っぽく笑って「本気で言っているのか」と尋ねた。
煙の祈りと金ボタンの提案
煙は穏やかな目で「はい」と答え、「あなたが損なわれることがないよう、祈っております。あなたは、わたくしの唯一の友人ですから」と続けた。金ボタンは天井を見上げ、煙の蝶ネクタイをつまんで「戻ったら飲みくらべをしよう。みんなは知らないが、俺はお前に勝てたことがないんだ」と提案した。煙は目を細めて「喜んで」と応じた。
そうして、煙は地下へ、金ボタンは最上階の部屋へと別れた。
金ボタンの出発
翌日、金ボタンは仕立てたばかりの三つ揃いのスーツを着込んでホテルを出た。空港へは美丈夫が車で送ってくれた。美丈夫が「稀代の色男の見送りがわたしだけとはな」と笑うと、金ボタンは「後腐れなく綺麗に発つのが真の色男だろ」と返し、工場が建ちならぶ舗装された道路を眺めた。空は高く澄んでいて、新しく制定された建国記念日に煙とホテルの正面玄関に国旗を掲げた日のことを思い出した。ほんの一年前なのに遠い昔に感じられた。
駐車場で「ここまででいい」と美丈夫に片手を差し出し、「砂糖っ子のことをよろしく頼む」と頼んだ。美丈夫は嫌みのない朗らかな声で「おいおい、後見人は私だぞ」と答えた。



