樺太・サハリンの民族分断描く舞台「チェーホフも鳥の名前」、北海道で進化
樺太・サハリンの民族分断描く舞台、北海道で進化

ソ連軍が日本領の樺太に侵攻した1945年8月、霧の中で出会った日本兵とソ連兵が言葉を通じて、互いに少数民族・ニブフであることを確認し、森に身を潜める――。札幌市北区の劇場で7月下旬に上演された舞台「チェーホフも鳥の名前」の一場面だ。演じるのは京都府を拠点に活動する劇団「ニットキャップシアター」で、同じ民族でありながら戦争で分断された悲劇を表現している。

多民族の生きた歴史を描く大作

作品では、野田(チェホフ)とその周辺を舞台に、戦争に翻弄されるロシア人、日本人、朝鮮人、ニブフなどの北方民族が登場する。語り、ダンス、民族楽器の生演奏などを交え、1980年代まで約100年間の樺太、サハリンの人模様を史実に基づいて描く大作だ。

脚本と演出を手がけたのは、大阪府出身の劇作家、ごまのはえさん(49)。「戦争の悲惨さを忘れずにいることが大切。それを描けるのがサハリンだと思った」と創作の動機を明かす。ごまのはえさんはロシアの作家アントン・チェーホフの戯曲を題材に作品作りを進める中で、チェーホフが1890年、当時ロシアの流刑地だった島を訪れた際の見聞をまとめたルポ「サハリン島」に出会った。渡り鳥のようにいくつもの民族がやってきて出会いと別れを繰り返す樺太、サハリンという地に興味を持ち、チェーホフもまたこの地を訪れた一羽の鳥だという思いから作品のタイトルを決めた。

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北海道での上演が作品を進化させる

樺太残留邦人の帰国を支援するNPO法人「日本サハリン協会」も制作を支援した。会長の斎藤弘美さん(69)は「戦争という悲劇に見舞われながらも、未来への希望が広がる樺太、サハリンを見事に表現している」と話す。

道内では2024年に初めて上演されたが、ごまのはえさんは「(道外での上演時とは)まったく反応が違った。自分自身や家族に関係する話として受け止めているお客さんの姿を見て、私も俳優も意識が変わった。より実感のこもった作品になった」と振り返る。日本人、朝鮮人のハーフである父とロシア人の母の間に生まれ、サハリンから札幌市に移住した女性(49)も「自分のことが重なり、本当に感動して、涙が出ました」と観劇の感想を語る。

同劇団は来年度、道内の俳優やスタッフと「北海道版」を創作、上演することを決定。11月には札幌市でオーディションを予定している。また、9月からは札幌市で計3回、ごまのはえさんが講師となって、サハリンなどの風景を撮影した写真をモチーフに短編戯曲を創作する講座も開く。

戦争が今も暗い影を落とす

ロシアによるウクライナ侵略後、日露関係は悪化し、サハリンを含むロシアと日本を結ぶ直行便の運航は中止されている。ユジノサハリンスク(豊原)と札幌が1時間半で結ばれていた過去は、まるで夢のようだ。往来はできても飛行機の乗り継ぎなどに時間がかかり、高齢者や体調に不安のある人にとっては大きな負担となっている。

9月にも、サハリンから札幌市に一時帰国する人たちがいる。望郷の念を持ちながら残留した人や子、孫に、戦争が今も暗い影を落としていることを、決して忘れてはならない。

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