海上保安官、刑務官、入国警備官を描く3作品 越尾圭さんが書店で紹介
海上保安官、刑務官、入国警備官を描く3作品を紹介

ミステリー作家の越尾圭さんが、書店で手に取った本を紹介するこのコーナー。今回は、海上保安官、刑務官、入国警備官という、普段あまり詳しく知る機会のない職業を描いた3作品を取り上げる。11日から始まる「全国地域安全運動」を前に、防犯や地域の安全について改めて意識する時期でもある。

海を守る若者たちの成長を描く『海の教場』

最初に紹介するのは、吉川英梨著『海の教場』(角川文庫)。霞が関で働く海上保安官・桃地政念は、ある事情から京都・舞鶴の海上保安学校へ赴任し、「主計」コースの教官を務めることになる。主計は調理や経理・庶務など、船上の暮らしを陰で支える役割を担っており、救難や警備といった華々しい仕事だけではない、知られざる一面が描かれる。

個性も悩みも異なる学生たちと向き合う桃地の姿は、ときに厳しく、ときに温かい。ユーモラスな描写もあれば、シリアスな展開もあり、つい目頭が熱くなる名場面も。命を預かる仕事の重さと、そこへ進もうとする若者たちの成長が丁寧に描かれ、青春小説や家族小説としても楽しめる爽やかな教場物語だ。

刑務官の葛藤を描く『慟哭の刑務官』

続いて、原浩一郎著『慟哭の刑務官』(コスミック文庫)。刑務官・新田圭吾は受刑者を嫌悪し、どこか見下すような感情を抱きながら日々の職務にあたっていた。しかし、ある出来事を境に、それまで当然だと思っていた受刑者への見方に変化が生じていく。罪を犯した人間をどう見るのか、刑務官は彼らとどんな距離で向き合うのかが問われる。

表題作のほか、出所した男性を描く「出所証明」、刑務所で出会う2人が抱えてきた過去を描く「花巻へ」の全3編を収録。刑務官の仕事や刑務所の内側を垣間見るだけでなく、罪を償うとはどういうことなのか、出所後の人生をどう立て直すのかまで考えさせられる作品集だ。

入国警備官の潜伏捜査を描く『潜伏 入国警備官・霧原隆一』

最後は、越尾圭著『潜伏 入国警備官・霧原隆一』(PHP文芸文庫)。外国人の不法滞在を取り締まる入国警備官・霧原隆一は、摘発現場で上司が射殺されるという事件を目の当たりにし、なぜ彼が殺されてしまったのか疑問を抱く。一方、自称フリーライターの弟・誠次は、アフリカを取材していた同業者の殺害事件を追跡する。

入国警備官というあまり知られていない仕事の実態を描きつつ、兄と弟、それぞれの視点から真相へ迫っていくスケール感のある社会派サスペンス。私たちの安全や社会の秩序は、さまざまな立場の人たちによって支えられている。小説を通して、その仕事や思いに触れてみてはいかがだろう。