国民作家と評された東野圭吾氏が令和8年7月23日、大腸がんのため死去した。享年六十八。突然の訃報に衝撃を受けた読者も多いだろう。本書『永遠の記憶』は、その作者の遺作であり、天才物理学者・湯川学が名探偵として活躍するミステリー『ガリレオ』シリーズの最終巻である。
二部構成で描かれる内海薫の物語
本書は二部構成だ。第一部は、シリーズ途中から湯川の相棒となった女性刑事・内海薫が、スーパーで買い物中に老人に刺される場面から始まる。その後、飛び降り自殺を図った老人は失敗に終わるが、取り調べでは黙秘を貫き、捜査は難航する。しかし湯川のアドバイスをきっかけに、意外な人物と事件の真相が浮かび上がってくる。
犯人側のアリバイ・トリックをあっさり見破る湯川の名探偵ぶりは、これまで通り楽しめる。ただし、それは物語の一要素にすぎない。作者はストーリーを通じて、内海の刑事としての在り方を掘り下げ、彼女の矜持を鮮やかに表現している。
湯川自身の物語としての第二部
第一部だけでも見応えのある話だが、この事件から湯川は別の新たな謎を発見する。それに挑むのが第二部だ。第二部の粗筋は、ネタバレの危険性があるためここでは書かない。ただ、『ガリレオ』シリーズの愛読者にとって、非常に衝撃的な内容だとだけ述べておこう。
第一部が内海の物語なら、第二部は湯川自身の物語である。警察に協力する形で名探偵ぶりを発揮してきた湯川は、本来なら事件と無関係な人間だ。それでも事件にかかわったとき、名探偵の責任はどこまで及ぶのか。人間を見つめてきた作者が到達した境地が、ここで示されている。最終巻にふさわしい作品だ。
さようなら東野圭吾。さようなら湯川学。今はただ、諸々の想いを静かにかみしめるのみである。



