人の想像力と創造力の際限なさを実感できる面白い本だ。タイトルにある「隠し部屋」は、推理小説に登場するような仕掛け扉の向こう側の密室を想起させるが、本書の守備範囲ははるかに広範だ。17の章で語られるのは、原題が示すとおり人目を避けるように造られた建物や場所に秘められた人生の物語である。
古今の歴史から収集された題材
古今の歴史から収集された題材は、古代エジプトの王墓やパリのカタコンブなど、死者のためのものが目につくが、ヴェルサイユ宮殿の隠し扉や米国禁酒法時代のもぐり酒場など、生者が何らかの目的のために造営したものも少なくない。
なかでも印象的なのが、米国の銃器会社の御曹司の妻、サラ・ウィンチェスターの邸宅である。銃で亡くなった多くの犠牲者を悼む強迫観念にとらわれて無秩序な増築を繰り返した結果、奇怪な外観を持つ幽霊屋敷となったのだという。
女性たちの夢が詰まったドールハウス
さらに興味深いのが、バロック期のオランダで作られた豪華なドールハウスである。著者によれば、裕福な女性にとってのドールハウスは、紳士の「驚異の部屋」に相当する存在であったらしい。これらはいずれも、自分だけの世界を創ることを願った女性たちの夢が詰まったものなのかもしれない。
本書が取り上げる事例は、時代や地域、テーマで分類されず、無作為に並べられているが、このことがかえって迷宮をさまよいながら驚きに満ちた発見と出会うような感覚を読者に与える。
時空を超えるショートストーリーと現地写真
また、大多数の章には、それぞれの主題となる場所について解説した本編に先立ち、「あなた」と呼ばれる登場人物の視点で当時の情景を映像的に描写したショートストーリーが置かれている。つまり、読者自身が時空を超えて、あるときはその場所の設計者や居住者となり、またあるときは探索者となって現場に居合わせるという趣向だ。
随所に配された現地写真とともに、未知の世界へと読者を誘う心憎い演出である。



