中沢新一『いま、ここにある神話』評:神話的思考の脈動を描く
中沢新一『いま、ここにある神話』評:神話的思考の脈動

人類学者・奥野克巳(立教大教授)が、中沢新一の新著『いま、ここにある神話』(講談社選書メチエ、2420円)を評する。中沢は量子力学やメタバース、漫画『逃げ上手の若君』『灰仭巫覡』、岡山や栃木、坂本龍一や上岡龍太郎など、現代の多様な事象に旧石器時代以来の神話的思考がなお活力を保っている様を描く。

神話的思考とは何か

神話的思考は一貫した論理だけでは捉えきれない世界に迫る。通常の思考が生と死、自然と人間を切り離すのに対し、神話的思考はそれらをひと続きに捉える。例えば、デパートの売り上げ低迷の中でも地方物産展が盛況なのは、その商品に都会人が失った大地=自然の生命力が漲っているからだ。平均化された商品を並べるデパートも、内部に非合理な力を組み込む知恵を持っていた。

大食いと出川哲朗にみる神話性

十六世紀の作家ラブレーが描く巨人王ガルガンチュアは、大食いで節制の道徳を笑い飛ばし、祝祭の熱狂の中で生命の豊かさを呼び覚ます。テレビの大食い番組にも同様の本質が潜むが、現代の大食いは溜め込みや苦痛の押さえ込みで空虚さを表現するものに変容したという。

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かつて「抱かれたくない男」上位常連だった出川哲朗は、電動バイクで全国を巡り人気を得た。その姿は全国を巡幸した昭和天皇に重なる。昭和天皇は戦後「垂直性の神」から「水平性の神」へと転じ、民衆に愛された。芸能人は水平の旅を経て垂直性の上昇でスターとなるが、出川はまれびとの系譜に連なる芸能者の原像へ近づき、古代的感情を蘇らせる。

脈打つ神話的思考

神話的思考の力は今も私たちの生きる世界に脈打っている、と本書は力強く描き出す。

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