「紺碧のアビタシオン」第8回 夏休み、父の言葉に動揺する美貴子
「紺碧のアビタシオン」第8回 夏休み、父の言葉に動揺

二年生になった美貴子は、夏休みが始まると父にせがんで市街地の西にある電気遊園へ連れて行ってもらった。この日は、丸襟で腰の部分に布製の薔薇の飾りが付いたお気に入りのワンピースを着ていた。

すでに暮れかけていた空には、七色のイルミネーションの灯りが滲んでいる。美貴子のお目当てはメリーゴーランドで、回転する木馬に乗って父に手を振ると、父はかすかに笑みを浮かべ、中折れのパナマハットを振り返した。

父の突然の知らせ

家には田所さんや使用人たちがいるけれど、美貴子は父との暮らしがこのまま穏やかに続いていくのだと思っていた。メリーゴーランドが終わり、父の手を取って歩き出す。今日の夕食は父が町のレストランに連れていってくれると言っていた。

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「少し休もうか……」と父がベンチに腰を下ろし、美貴子も隣に座った。父は手にしていたパナマハットで美貴子に風を送ってくれる。空はすっかり夜空に変わり、名前の知らない星々が頭上で輝いていた。

その時、父が美貴子の顔を見ないまま「もうすぐ、新しいお母さんが家にやってくるぞ」と告げた。美貴子が「……えっ」と驚くと、父は「美貴子の新しいお母さんが家に来る。みんなで仲良く暮らしていこうな」と続けた。

田所さんの別れ

新しいお母さんという言葉に、イルミネーションの灯りも夜空の星の瞬きも急に消えてしまったような気がした。美貴子は「私のお母さんは亡くなったあのお母様で、その代わりはいません」と言いたかったが、少し苦しそうな父を見ていると何も言えず、心の中に生まれた澱のようなものが体じゅうに広がっていくのを感じた。

新しい母が家にやってくる直前に、養育係だった田所さんがいなくなった。勉強も生活習慣の決まりごとも、本来なら母が教えてくれるようなことをすべて、幼い美貴子に田所さんは教えてくれた。しかし、新しい母が来るのであれば、田所さんの役目はなくなってしまう。

「お嬢様、どうかお元気で」とトランクを手にした田所さんは言葉少なに告げ、家を後にした。私の好きな人たちはどうして私から離れていってしまうのだろう。涙をこらえながら、美貴子は小さくなっていく田所さんの背中をいつまでも見送った。

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