水俣病公式確認70年の節目、歌人・桜川冴子さんが歌集『母郷』刊行
水俣病70年、歌人・桜川冴子さん『母郷』刊行

熊本県水俣市出身の歌人、桜川冴子さん(65)(福岡市在住)が歌集『母郷』(本阿弥書店)を刊行した。水俣を詠んだ作品も多く収録し、水俣病公式確認から70年の節目の年に、命を見つめ直す一冊となっている。

約400首を収録、水俣への思いを詠む

歌集には、2019年から今年春までの約400首を収めた。小学校卒業まで暮らした水俣は、今も重要なテーマであり続ける。水俣病犠牲者の遺影を並べて被害の実態を伝える「水俣展」を訪れて詠んだ〈数でなく固有名詞であるはずの死者に試さる おまへは誰だ〉は、「『水俣を生きる』一人として、水俣病を忘れずに次の世代につないでいく責任がある」と語る桜川さんが、自身の覚悟を問われたような一首だ。

〈離郷とは棄郷ではない水俣の海のこゑする人のこゑする〉〈湿り気を帯びて身に入る 蝉声(せんせい) のこのけだるさの母郷水俣〉といった作品が、痛みを経験した郷里の、それでもなおそこにある命や愛を考えさせる。

「母なる水俣」への思いをタイトルに

桜川さんは「今を生きる私の命には『母なる水俣』がつながっていることを表現したくて、『母郷』のタイトルにした」と話す。

東日本大震災の被災地、福島県南相馬市を訪ねた際には、〈農薬をやめた水俣の甘夏を語る人あり南相馬に〉と詠んだ。ロシアのウクライナ侵略など戦争を詠んだ歌もあり、人々が負わされた痛みや命に寄せる思いが通底している。