紺碧のアビタシオン第3回 窪美澄が描く正成の心のよりどころ
紺碧のアビタシオン第3回 窪美澄が描く正成の心

英語や中国語を操りながら外国人のなかで働く日々。仕事には細かい神経を使うが、それ以上に大きな穴を心に開けていたのは、妻と二人の子どもたちを亡くした出来事だった。そんな正成にとって、週日曜日に通うキリスト教の教会でのミサは、ふっと気が抜けるひとときだった。

美貴子との日曜日の過ごし方

正成は美貴子と二人でミサに出かけ、その帰りには、美貴子の行きたいところへ連れていく甘い父だった。夏になると、美貴子のお気に入りは市街地の中心、大広場近くにあるヤマトホテルの屋上、ルーフガーデンだった。

そこでウエハース付きのアイスクリームを食べる。冷たくて甘く、舌にのせると瞬く間に溶けていく不思議な食べ物を美貴子は大好きだった。母もこのアイスクリームが好きだったことを思うと、美貴子の胸のあたりを小さな蟻に噛まれたような痛みが走る。

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屋上から見える町の風景

アイスクリームも好きだったが、美貴子がもっと好きだったのは、屋上から見える町の風景だ。まず目に入るのは大広場。直径約二百メートルの円形の広場で、外周を囲む道路から十本の幹線道路が延びていた。この町がまだロシアのものだった頃に、パリのエトワール広場を参考に設計されたものを日本が引き継ぎ、この円形広場を作り上げた。

夕暮れになると、広場の中央を囲むガス灯に青白い炎が灯り、あたりを異世界のように染め上げる。街路樹にはアカシアが植えられ、五月になると、どこかせつなくなるような甘い香りが町を包んだ。

美貴子の心に残る景色

「きれい……」と美貴子は思った。その頃の美貴子はまだ、都市計画の美しさを讃える言葉を持たなかったが、心の底からそう感じていた。ヤマトホテルの屋上からは、銀行や市役所、警察署、関東逓信局などの建物が見えた。そのどれもが、石や煉瓦でできた堅牢な洋風建築で、清潔さと優美さを兼ね備えていた。

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