華麗なトリックと厳密な構成、体温を感じさせる人物造形で知られる作家の東野圭吾さんが23日に亡くなった。デビューから40年余り、日本のミステリー界の第一人者として活躍。天才物理学者が難事件を解決する「ガリレオ」シリーズを始め、多くの作品が映画やドラマになり、海外でも愛読された。
8月5日には106冊目(共著を除く)となる「ガリレオ」シリーズ最新作「永遠の記憶」(文芸春秋)が刊行される。
俳優たちの追悼
作品は福山雅治さん(57)、柴咲コウさん(44)ら一流の俳優陣によって映像化されてきた。「ガリレオ」シリーズで主演を務めた福山さんは「先生の作品の住人として、ひとりの読者として、生み出された物語にこれからも魅了され続けたい」とSNSに投稿した。TBS系「新参者」などで刑事・加賀恭一郎を演じた阿部寛さん(62)は「『新参者』に出演できたことは、私の俳優人生における大きな転機となりました。東野さんとのご縁に、心から感謝しています」とコメントした。
関係者の回想
東野さんの後任で日本推理作家協会理事長を務めた作家の今野敏さん(70)は「スター性があった。作品の話はほとんどせず、もっぱら世間話でした。パーティーなどでの非常に朗らかで明るい姿が印象に残っています」と振り返った。
海外での反響
東野さんの作品は2000年代にアジア圏で翻訳が進み、2010年代に中国語圏で人気を確立。近年は欧米にもファンを広げた。中国中央テレビなど中国官製メディアは東野さんの死去を相次いで速報。北京の書店では70作品以上が店頭に並び、27日には多くの来店者が作品を手にした。中国のSNS・微博では同日午後「東野圭吾死去」が検索ワードの1位に。「彼の物語は国境を超え、ページにとどまり続けるだろう」といった言葉が寄せられた。
台湾メディアによると、台湾の出版社は今月、代表作「ナミヤ雑貨店の奇蹟」の50万部記念愛蔵版を出版したばかり。SNSでは「全台湾人にとって最もなじみの深い推理小説家だった」とたたえる書き込みが相次いだ。
書店と読者の反応
東京・有楽町の三省堂書店は悲報を受け、東野さんの特設コーナーを設けた。同店を訪れていた東京都世田谷区の会社員女性(50)は「トリックも優れていたが、心を揺さぶるような人間ドラマも好きだった。作品を出すペースも尋常ではなく、実在する人物と思えないくらいの存在だった。ショックです」と肩を落とした。
評伝:職業作家としての生涯
大阪市の下町で育ち、大手自動車部品メーカーのエンジニアをしながら応募した江戸川乱歩賞を27歳で受賞。デビュー作こそヒットしたが、その後は鳴かず飛ばず。「なぜ売れないんだと苦しんだ」時期が続いたという。転機は「物語のために人を動かすのでなく、人が自然に動く書き方をすべきだ」と気づいたこと。死んだ妻の心が娘に宿る「秘密」(1998年)、心に闇を抱える男女を戦後史に重ねた犯罪小説「白夜行」(1999年)など人間ドラマや社会性に力点を置く作品で評価を高めた。
デビュー20年の節目に出した「容疑者Xの献身」(2005年)で純愛と謎解きの趣向を融合させ、6度目の候補で直木賞を受賞。当時のインタビューで職業作家としての秘訣を問われ「妥協して本を出さないこと。読者は正直で、1回手抜きをすると離れてしまう」とプロ意識をにじませた。作品の映像化も多く、「脚色も気にならないし、こういう手もあると勉強になる」と歓迎していた。
直木賞受賞後はインタビューなどを受ける機会は減ったが、刑事「加賀恭一郎」シリーズや「ガリレオ」シリーズ、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」などベストセラーを連発。仕事の後は銀座の文壇バーで疲れを癒やし、冬はスノーボードに出掛けて英気を養った。日本推理作家協会理事長も務め、小説の読者を増やす方法を真剣に考えていた。
21年前、20年後にどうしているか作家に聞かれたことがある。「逃げずに今と同じぐらいのパワーで小説を書いていたい」。その通りに生きた大黒柱を、ミステリー界は突然失った。



