日韓文学者の往復書簡集『言葉の森のかくれんぼ』出版 純粋な言葉で国境越える
日韓文学者往復書簡『言葉の森のかくれんぼ』出版

韓国の作家・翻訳家チョン・スユンさん(47)と、韓国文学の翻訳家斎藤真理子さん(66)による往復書簡集『言葉の森のかくれんぼ』(岩波書店)が出版された。創作と翻訳の違いや大切な言葉、死生観などについて、2年にわたって国境を越えた心の通い合う手紙を交わした内容が収められている。

純粋な言葉への思い

チョンさんは出版に際し、「1週間ほど前にソウルの街を歩いていて、制服を着た中学生の女の子たちの会話が聞こえてきました。『日本に行きたいね』『小さい街がいいね』と話していた。政治などに歪められていないこの子たちのような普通の純粋な言葉を、伝えたいと思いました」と語る。

チョンさんは韓国の大学卒業後、早稲田大学大学院で修士号を取得。太宰治全集や茨木のり子詩集など、多くの日本文学を韓国語に翻訳してきた。斎藤さんとは仕事だけでなくSNSでもつながり、2024年春から書簡のやり取りを始めた。

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書簡の中では、「翻訳は『読書による深呼吸』だと思っています」(斎藤さん)や、「木という字は、本当に面白いです。一がどこにつくかによって、まったく違う意味になりますので。上なら、未と末。下なら、本」(チョンさん)といった心に残る言葉が綴られている。

言葉と文化の探求

斎藤さんは、日本語の「き」にあたる韓国語の言葉「なむ」に着目した詩を手がけている。チョンさんは日本語の「き」という言葉に惹かれるといい、「日本では『木』を『コ』とも読み、『子』に通じている。ともに成長するイメージは、韓国にはない発想です」と指摘する。

チョンさんはソウル生まれで、20歳から日本語を学んだ。「ひらがなやカタカナの曲線は、チョウチョが飛ぶみたいだった。母語は子どものころから勉強のプレッシャーがあったけれど、日本語は自分で選んで学ぶので楽しかった」と朗らかに笑う。今回の往復書簡は日本語で執筆された。

今年2月には、小説『波の子どもたち』(岩波書店)を斎藤さんの訳で刊行。北朝鮮から韓国に脱北した16歳の男女3人を主人公にした物語で、チョンさんは韓国のキリスト教修道会関係の集まりで脱北者に会い、13年間で100人に及ぶ人と実際に話した経験が作品につながった。「北朝鮮に住む人は怪物ではない。親を愛する優しい人でした。普通の人たちの実情を伝えたいと思いました」と話す。

来日イベントと交流

チョンさんは7月に来日し、東京都内の書店で斎藤さんとトークイベントを行った。その場で、脱北して韓国で子どもを産んだ女性から聞いた話を紹介。女性は、韓国語でスーパーマーケットを意味する言葉を娘の名前につけたという。「初めてスーパーを訪ねたとき、何でも物があって、自由に買えて天国だと思ったそうです」とチョンさんは語った。自作を朗読した際には、脱北者のことが頭をよぎったのか涙で言葉を詰まらせる場面もあった。

また、韓国の詩人で作家のイ・ジャンウクさん(58)も来日。「キリンとキリンではないすべてのものの隙間で」と題した詩は、現代人の疲れた心に深く染みる一編だ。「詩は新しい感覚を触発するものです」と静かに語る。

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イさんはソウル生まれで、大学でロシア文学を学び博士号を持つ。キリンが好きになったきっかけは大学院時代、「酒を飲んでひどく酔ってタクシーに乗ったとき、窓の向こうの木のあたりにキリンのような存在を見た」ことだという。この詩は自身の短編がもとになっている。作品は、日本で韓国文学の紹介を続ける「K-BOOK振興会」作成の小冊子に収められている。「日本でもそうかもしれませんが、韓国では特に実用性が重んじられる社会になっています。キリンは、必要性からは遠い異質な生きものなのです」とイさんは語る。