『水の世界史』書評:人類と水の格闘の歴史を描く骨太な一冊
『水の世界史』書評:人類と水の格闘の歴史

ジュリオ・ボカレッティ著、今西康子訳『水の世界史』(白揚社・3520円)は、人類の始まりから水道、灌漑、運河、水車、発電に至るまで、多様な水と人間の関わりを豊富な事例で描き出す骨太な歴史書だ。

定住とともに始まった水との格闘

人類の「破壊的な力をもつと同時に、命を育む恵みでもある水との格闘」は定住とともに始まる。農業には治水が不可欠であり、協力行動が促され、国家が形成された。メソポタミアの最古の都市国家ウルクは、ユーフラテス川の堤防で高い農業生産性を実現し、水路で遠方の市場とも交易した。

上流の都市国家は、水の供給を遮断することで下流の都市を支配したが、水を巡る最古の国家間紛争もこの地で起こった。

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水が生んだ「前例のない工業化」と「水力国家」

水は重要なエネルギー源にもなった。14世紀末、イタリア・ボローニャには52基の水車があり、製粉、紡績、金属加工に動力を供給した。蒸気機関による英国の産業革命から数百年前に実現した「前例のない工業化」だった。

20世紀、「水を中心に国家が発展していく時代」が到来した。米国とソ連は「水力国家」だった。米国がニューディール政策の一環として進めたテネシー川流域開発公社は大戦後のマーシャルプランにも引き継がれ、世界の産業開発のモデルとなった。他方、ソ連は革命家レーニンの言葉にあるように「共産主義とはソビエト権力と全国土の電化」だった。独裁者スターリンは世界最大級の水力発電所や巨大運河を大きな犠牲を払って建設したが、営農システムは非効率で生産量は増えず、ソ連の内部崩壊を導いた。

環境重視の時代、水の新たな役割

そして現在、環境重視から大規模開発の時代は過去のものになった。気候変動の激甚化もあり「水との格闘」は続いているが、先進主要国では、解放感や安らぎといった水の役割も重視される時代が到来したのではないか。

欧州で運河沿いの倉庫を芸術空間に変えた都市再開発を訪れたことがある。東京・日本橋では上方に架かる高速道路の高架を撤去し水辺の景観を回復する計画が進む。本書にはそうした観点への言及がほとんどなく、少し残念だ。

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