ルネサンス女性の美と抗いを描く書評『ルネサンス女性になる方法』
ルネサンス女性の美と抗いを描く書評

長年ダイエットに励んでいたマントヴァ侯妃、美容医療に精通し多くの顧客を抱えた移民女性、水銀中毒の弊害を抱えながらも美白を追求したミラノ公妃、化粧品の成分を利用して非道な夫をひそかに毒殺する者まで――。現代の中づり広告で目にしても違和感のないこれらの逸話は、いずれも500年前の実話だ。

1500年代イタリアを舞台に、女性たちの容姿への向き合い方を描く

本書『ルネサンス女性になる方法』(ジル・バーク著、竹田円訳、白揚社・3520円)が取り上げるのは、1500年代のイタリアを主な舞台に、さまざまな境遇に置かれた女性たちが思慮深く、抜け目なく立ち回るために自身の容姿と向き合い続けた生き方である。

男性優位の社会の中で形づくられた美の規範に対し、女性たちがどのようにその実現を試みたのか、あるいはそれに立ち向かったのかが、多岐にわたる一次史料の読解・分析に基づいて生き生きと伝えられる。

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著者の研究背景と、読者をいざなう仕掛け

著者はイタリア・ルネサンス美術史の研究者であり、歴史的な変革が人間の身体に及ぼす影響に関心を寄せ続けている。2021年から23年にかけてソフトマター物理学の研究者と進めた共同研究では、初期近代におけるパーソナルケアの調査を行っており、本書の随所で読者の心をつかむ実地的な見解はその研究に裏付けられるものだろう。

終章にはルネサンス期の調剤の手引書に倣った美容の「レシピ集」も収録されているほか、詳細な巻末注に加えてオンラインの情報サイトも掲載されており、広い間口からマニアックな細部へと読者の興味を巧みにいざなう。

美への努力は社会を映す鏡、現代人への示唆も

本書の魅力は、ルネサンス期を生き抜いたあらゆる階層の女性たちの美容にまつわる証言を事細かにすくい上げ、時代情勢に照らすことで、当時の社会の神髄を洗い出している点にある。「ルネサンス女性になる」ということは、自らの存在価値を高らかに宣言し、社会的な自我を表現することにほかならない。

「社会に受け入れられる体を手に入れる」努力は、その人が生きる社会そのものを映す鏡ともなる――それは翻って、現代人にとっても示唆的な観点だろう。

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