安倍晋三氏の首相としての歩みを描いた服部龍二著『安倍晋三』(中公新書・1210円)の書評が、日本大准教授の千々和泰明氏によって寄せられた。
「構想力の首相」の実像
安倍氏が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想は、日本発の秩序構想を国際社会に定着させたかつてないイニシアチブだった。安倍政権下で初めて策定された国家安全保障戦略でも、「積極的平和主義」というビジョンが語られた。
本書は安倍氏を構想力の首相と位置づける。その政権運営は、連立相手の公明党や国内世論に配慮した実用主義的なもので、多くの政策実現に寄与したと評している。
業績と失点の両面を検証
集団的自衛権行使容認は、憲法解釈の大幅変更ではなく部分変更による限定容認だった。本書はこうした安倍氏の業績を、今日の外交・安全保障政策の基盤を築いたものとして評価する。
一方で、ロシアとの北方領土返還交渉で二島+α返還論まで後退したことや、尖閣諸島について中国に「異なる見解」であることを認める不用意な譲歩をしたことを失点として指摘する。
「不完全なリアリスト」という評価
その上で本書は、豊かな構想力を示しながらも現実の政策で自らの構想を掘り崩しかねなかった安倍氏を、「卓越した構想力と運用上の脆弱性」を併せ持った「不完全なリアリスト」と評する。
安倍氏は憲政史上最長の首相在任期間中に特筆すべき実績を残したが、崇拝の対象にもなりかねず、時間の経過とともに功罪を全体像として描くのは難しくなるかもしれないと評者は指摘する。
暗殺からわずか4年での評伝刊行は驚くべきことだが、『中曽根康弘』など精緻な首相評伝を手掛けてきた著者の真摯な問題意識によるものだとしている。



