『カグラバチ』『日本三國』…“ハイブリッド”な「和風ファンタジー」なぜ人気? 異世界ものの先に見えた変化
『カグラバチ』『日本三國』…“ハイブリッド”な「和風ファンタジー」なぜ人気?

現在、マンガ界では『カグラバチ』『日本三國』『地獄楽』など、日本の歴史や文化を再解釈した「和風ファンタジー」の躍進が止まらない。長らく市場を牽引してきた「異世界・転生もの」が成熟する中、なぜ今このジャンルが爆発的なヒットを記録しているのか。電子コミックストア「コミックシーモア」への取材から、その理由を探る。

「和風ファンタジー」が躍進、歴史上の日本とファンタジーの「ハイブリッド」

近年のマンガ界では「異世界ファンタジー」の盛り上がりが市場を牽引してきた。その土壌がある中で、現在は『カグラバチ』『日本三國』『地獄楽』といった「和風ファンタジー」作品が次々とメガヒットを記録している。電子コミックストア「コミックシーモア」の販売推進担当者は、この現象について「西洋風の異世界ジャンルの揺り戻しが起きているわけではなく、新たな需要として並行して売れている状態」と分析する。さらに、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などから火がつき、アニメなどの「メディア化」が牽引力になっていると語った。

一方、作品分析の担当者は、異世界ファンタジーと和風ファンタジーの明確な違いについて、「読者の入りやすさ」という構造面から指摘する。異世界ものに多い西洋風ファンタジーでは、その世界の地理や政治体制といった世界観を一から説明する必要がある。しかし和風であれば、「侍」や「殿様」といった階級、あるいは地名など、日本人にとってすでに馴染みある世界観がベースとなっているため、そうした説明が不要に。「過剰な文字情報がなくても絵だけで状況が伝わり、読者がすぐに入り込みやすいという絶対的な強みがある」と明かす。

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もちろん、異世界ものだとしても、「王」や「伯爵令嬢」など日本人が感覚で理解できる記号的な単語を使うことで世界観に入りやすくなる側面はある。これは、『ドラゴンクエスト』のような異世界を舞台にしたRPGや、『ベルサイユのばら』などヨーロッパを舞台としたマンガを通じて、ファンタジーの素地が日本人に刷り込まれていることと無関係ではない。つまり、突拍子もない難解な設定よりも、読者がすでに持つ知識や現実と地続きの要素があることが、ヒットにおけるひとつの“強み”となっているのだ。

特に今のヒット作は、歴史上の日本をベースにしたパラレルワールド的な描かれ方や、リアルとファンタジーが独自に混ざり合って発展した「ハイブリッド化」が特徴だ。例えば映画化、アニメ化もされたヒット作『鬼の花嫁』も、現代日本を舞台に普通の女子高生と妖怪(鬼)の恋愛を描くことで、読者が一切の違和感なく没入できる構造になっている。

第1話でゴール明確、現代の読者が重視する“タイパ”と“コスパ”

世界観がなじみ深く「読者が入りやすい」ことに加え、ヒット作にはさらなる共通点がある。作品分析担当者は、現在の市場における“ジャンルを問わない”鉄則として「第1話の段階で目的(ゴール)が明確であること」を挙げる。例えば、『ONE PIECE』の「海賊王になる」や、『鬼滅の刃』の「妹を人間に戻す」のように、主人公が何を目指しているのかが読者に即座に伝わることが極めて重要だという。

「現代の読者はSNSなどの影響もあり、“タイパ(タイムパフォーマンス)”や“コスパ”を重視しています。せっかく時間とお金をかけて読んだのに『結局何が言いたい作品なのかわからなかった』というハズレの事態を避けたい心理があるため、ゴールが明確で安心して追える作品が選ばれやすいのです」

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実際に今ヒットしている和風ファンタジーもこの鉄則を踏襲している。例えば『日本三國』でも「日本を統一し、住みやすい国を作る」という主人公の大きな目的が序盤でしっかりと提示されていることで、読者は迷わずに物語へと没入し、その過程を楽しむことができるのだ。

社会環境も影響、「転生で一発逆転!」より「絶望と葛藤」に共感

しかし、前章で触れたような「明確で前向きなゴール」が提示される一方で、そこに至るまでの道のりや描かれる世界観は、決して底抜けに明るい冒険譚ではない。また、“転生”をきっかけに一気にチート級の能力を手に入れて無双するような展開とも異なる。むしろ近年のヒット作は、主人公が絶望的な状況に置かれ、それが長く続いていくダーク寄りの世界観が多い。

作品分析担当者は、その理由を「社会環境の影響と心理的な親近感」だと指摘。経済の低迷や給与が上がらない現状など、明るい未来が描きづらい現代のストレス社会において、読者は底抜けに明るいファンタジー世界よりも、不幸で過酷な環境下で葛藤しながら生き抜くダークヒーローの姿のほうに親近感を抱きやすいという。もしかすると、“転生”などによる魔法のような一発逆転よりも、泥臭い葛藤のほうが今の時代には共感が生まれやすいのかもしれない。

「ゲーム文化などで“メリーバッドエンド(メリバ)”が浸透しているように、完全無欠な正義や大団円のハッピーエンドは現実味がなく、理不尽な世界で泥臭く耐え抜くリアルな姿が求められているように思います。落ち込んでいる時に明るい曲ではなく、失恋ソングを聴いて心を癒やす心理に似ているのかもしれません」

この点について、販売推進担当者も次のように現代の読者心理を代弁する。「不遇な環境や身内の死といったマイナスからスタートし、深い闇や傷を抱えながらも誰にも依存せず、己の力(刀など)だけで這い上がっていく。そうした主人公の姿に読者が深く自己投影し、抑圧された状況を打破した際にスカッとする強烈なカタルシスを得ているのだと考えられます」

では、かつての『るろうに剣心』のような過去の和風ファンタジーとは何が違うのだろうか。分析担当者は、以前は「武士道」や「人間の生き様」といった内面に重きを置いていた作品が多かったのに対し、現代のヒット作は「特殊能力」や「アイテム(武器など)」にフォーカスしたエンタメ性が強いと語る。

「『鬼滅の刃』において自らのオリジナルの刀を作る過程が詳細に描かれたり、刀を擬人化した『刀剣乱舞』がメガヒットしたりしたことからもわかるように、日本人はもともとモノに対する執着や『収集癖』を持ち合わせています」

西洋のファンタジーでも武器に固有の名称がつくことはあるが、日本が舞台の場合はとくにその傾向が顕著。刀にまつわる歴史やいわくが物語に影響し、固有の銘が与えられることも多い。『カグラバチ』を含めて、令和の和風ファンタジーにもそれが表れている。この「アイテムへの愛着」を強く刺激するエンタメ要素が、読者をより深い熱狂へと惹きつけているのだ。

テンプレ化からの脱却と海外展開の鍵、和風でも“ちょんまげ”はNG?

今後の展開について、作品分析担当者は「『鬼滅の刃』以前は中華風ファンタジーが流行っていた時期もあり、そこからのトレンドの交代が起きている」と語る。また、異世界ものの流行も終わるわけではないが、設定が完全にテンプレ化した「ハンコ型」の作品は淘汰され、明確に差別化された作品だけが生き残るシビアなフェーズに入っていくと予想される。「読者の心理を的確に突き、作り手の主人公目線ではなく“読者目線(読者が何を求めているか)”を徹底することが必須」だという。

さらに、「海外展開」を成功させる上でも、現代の和風ファンタジーならではの工夫があると作品分析担当者は明かす。世界展開においては、ガチガチの時代考証に従った和装ではなく、キャラクターの髪型をちょんまげではなく現代風にしたり、服を着崩したりする「ファッション的なカッコよさ」を取り入れることが極めて重要だという。

「『地獄楽』でもメインの登場人物の髪型は現代風ですし、『鬼滅の刃』でも、着物だけではなく大正時代ならではの洋服的なアレンジがほどこされています。その点も、海外の人たちや今の若者にウケる要素になっているかもしれません」

これまでのマンガやアニメ、ゲーム文化と、「異世界もの」という巨大な土壌で育まれた読者のファンタジーリテラシー。それをベースに、日本人にとってなじみ深い「和」の世界観と、現代社会の闇を投影したダークな物語、そして読者目線を徹底したエンタメ性が見事に融合したのが、今の「和風ファンタジー」だと言える。今後、どのような新しい物語が生まれ、国内外の読者の心を震わせるのか。マンガ界の次なるメガヒット作の誕生から目が離せない。