文学賞を取って有名になりたいのではなく、書いたものを親しい人に読んでほしい――。そんな思いから、澤田展人さん(札幌市)は2016年8月、定年退職後に文芸誌「逍遥通信」を創刊した。毎年1号ずつ発行を続け、20日発行の最新号で11号を迎えた。これまで原稿を寄せた作者は50人を超え、志ある道内の書き手にとって作品を世に出せる場となっている。
創刊のきっかけと背景
澤田さんは1954年、札幌市生まれ。高校時代は札幌南高で学園闘争が盛んな時期を過ごし、生徒会誌の編集に加わった。「いまの世界を当たり前と受容せず、言葉を武器に闘いたい」との思いから、東大文学部に進学。卒業後は出版社に就職したが、労使闘争の波にのまれ2年で退職した。
その後、バイトで食いつなぎながら通信制で教員免許を取得し、故郷で社会科教員に。網走や夕張を経て母校に戻ったが、仕事に忙殺され小説を書く余裕はなかった。40歳のとき初めて文学賞に応募したが、注目を集めることはなかった。
「逍遥通信」の誕生
定年間近の2016年3月、賞に左右されず気軽に作品を共有できる場を作ろうと、高校からの友人、外岡秀俊さん(元朝日新聞編集局長、2021年死去)に相談。外岡さんなど有志から原稿が寄せられ、念願の文芸誌創刊にこぎ着けた。誌名の「逍遥通信」には「ぶらぶら散歩しながら浮かんだ気持ちを、便りにして届けたい」との思いを込めた。
創刊号に掲載された「アジアのヴィーナス」は、フィリピン人の母と日本人の父を持つ主人公が借金まみれの父に振り回されながら必死に生きようとする物語。澤田さんが定時制高校に勤務していた経験に着想を得たという。
紙の文芸誌へのこだわり
ネットであらゆる情報が手に入る現代でも、澤田さんは紙の文芸誌を発行し続ける。「本と出会わなければ、その時々の出来事に絶えず翻弄され、損得など合理的な見方に終始してしまう。日常から自分を遮断し、深い場所まで引き込んでくれるのが読書の魅力」と、山積みの本に囲まれた仕事場で語る。
7号の巻末には「この時代に困難を抱えながらも生きる道を手探りしている人々の声が響き、読み手に届く場であることを願って」と記した。文学を必要とする人がいる限り、書き手の人生を映す個性豊かな作品を一冊に編み、送り届ける。
今後の活動
「逍遥通信」は無料で、読者からカンパを受け付けている。寄稿者同士が交流できる合評会も毎年開いている。座右の書はセルバンテスの長編「ドン・キホーテ」。入手希望はメールアドレス(sawada.kn@jcom.home.ne.jp)まで。



