今敏のアニメ全作品を論じた初の和書 『今敏 未完のアニメーション』評
今敏のアニメ全作品を論じた初の和書 書評

アニメ監督・今敏(こん・さとし)の全作品を論じた初めての和書『今敏 未完のアニメーション』(宮本裕子著、青土社)が刊行された。評者の浅古泰史氏(経済学者・早稲田大准教授)は、本書の構成と分析の深さを高く評価する。

「パプリカ」を原型に、時間を遡る斬新な構成

本書は、今敏の最後の長編アニメ「パプリカ」を「原型」と位置づけ、最初の長編「パーフェクトブルー」へと時間を遡る構成を採用。この手法により、作品群を貫く虚実の二項対立と、背景にある時代性が浮かび上がる。

浅古氏は、留学先のアメリカで「パプリカ」を観た衝撃をきっかけに今敏作品に没入し、彼が世界のアニメ映画を牽引する存在になると確信していたという。2010年の訃報に接した際の深い絶望を述べつつ、本書が没後15年以上経ってようやく刊行されたことには、喪失感の大きさが影響していると推測する。

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「東京ゴッドファーザーズ」評の鋭さ

特に印象的だと浅古氏が指摘するのは、作品群の中でも「地味」とされる「東京ゴッドファーザーズ」の評である。女性を自認する主人公ハナをコミカルに描くことが、トランスジェンダー嫌悪を是認しているように映る点を今敏の「限界」と指摘しつつ、繰り返し現れるメディア・イメージや血液のモチーフから、当時の家族観への鋭い批評性を読み取る視点は鮮やかだと評価する。

「妄想代理人」評が照らす現代の推し活文化

「妄想代理人」評についても、癒やしや救済が大量消費される時代のかりそめの姿を見抜いていたという指摘は、現在の推し活文化が抱える危うさをも照らし出し、示唆に富むと浅古氏は述べる。

今敏を語り続けることの意味

著者の宮本裕子氏は「今敏のアニメーションについて書くことは不毛である」と述べるが、その行間からは、失った悔しさと未来へ受け渡したいという切実な願いが伝わってくる。浅古氏は「今敏の新作を観ることはもう叶わない。それでも私たちは今敏を語り続けるしかない」と結ぶ。

本書は、今敏のアニメーション研究の第一歩として、またファン必読の一冊として、読者に新たな視点を提供するだろう。

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