夜明け前の白み始めた空に、四角く刈り込まれた木々のシルエットが浮かび上がる。静かに水をたたえる田んぼに、枝葉が織りなす幾何学模様が鏡のように映り込んだ。太陽が昇ると、はるかに広がる田園風景にいくつもの「緑の屛風」が姿を見せた。
これは「築地松(ついじまつ)」と呼ばれるもので、島根県東部に広がる出雲平野の散居村に特有の屋敷を守る防風林だ。冬場、日本海から吹き付ける季節風を防ぐため、北西に向かって家を囲むようにクロマツが植えられている。高さは8~12メートル、樹齢は古いもので200年以上になる。
築地松の始まりと役割
築地松が植えられる原因となったのは、江戸時代に度重なる氾濫を起こした「暴れ川」斐伊川だ。近くを流れる斐伊川の氾濫に備え、屋敷まわりの盛り土を補強するために木を植えたのが始まりとされる。上部は水平に、縦の線は空に向かって広がるように刈られている。
「刈り込むことで屋敷に風格を持たせ、不要な日陰をなくし風通しも調整できる」(出雲市建築住宅課)という。
減少続く築地松
築地松がある家では4年に1回程度、陰手刈(のうてご)りと呼ばれる職人の剪定が不可欠だ。維持には困難が多く、近年は減少の一途をたどっている。
島根県や出雲市などの調査によると、平成24年度に確認された築地松の屋敷は1516戸、クロマツは1万0731本で、11年度の3380戸、2万2501本の半分にも満たなかった。主な原因は松くい虫による松枯れだ。被害対策への助成など行政も協力しているが、職人や屋敷所有者の後継者不足など課題は多い。
自宅に築地松を持ち「築地松案内人」も務める瀬崎勝正さん(73)=出雲市斐川町=は「近所の築地松も随分なくなり寂しくなった。冬は北風、夏は西日を防いでくれる、先人が知恵を絞って育んだ地域の文化。なんとしても後世に残さないと…」と危機感を募らせている。



