和歌山市十二番丁に、聴覚障害の有無にかかわらず語り合える「手話交流カフェ」をうたう飲食店「Amber(アンバー)」が今春、昼のカフェ営業を始めた。手話の普及促進を図る手話施策推進法が2025年に施行され、関連施策の実施が国などの責務となる中、ろう者や一般客がひとときを共有する地域の貴重な憩いの場となっている。
バーから生まれた新たな交流の場
店は26年3月までは夜にバーとして営業してきたが、今春から手話交流をうたう昼のカフェ営業も開始。店主の河端七海さん(43)も手話を交えて交流を楽しんでいる。
6月下旬には、市内外から来店した10~70歳代の男女約30人が手話や会話を通じてうなずいたり、笑い合ったりする姿が見られた。カフェは原則水・日曜日の午後1~5時に営業し、休みは店のSNSで確認できる。河端さんによると、客同士で仕事の悩みや身近にあった笑い話など様々な話題で盛り上がるという。
手話を学び始めたきっかけ
バーは21年に開店。転機は3年前、河端さんがSNSで、サンタクロースが手話を使ってろう者の女児と自然に会話する動画を見たことだった。女児に障害があることを感じさせないサンタの行動に「感銘を受けた」という。
そこから手話を学ぼうと、市内の手話サークル「たんぽぽ」や県聴覚障害者情報センターの手話通訳者養成講座に参加。今では1000単語程度を表現できるとされる手話技能検定3級を持つまでになった。
ろう者にとっての貴重な存在
県障害福祉課によると、県内の聴覚障害者(平衡機能障害を含む)は26年3月時点で5388人。和歌山市内にはこのうち1735人が暮らしている。市は手話通訳者が代わりに電話をかける「どこでも手話電話サービス」や、公的機関や医療機関などを訪れる際に手話通訳者を派遣する事業などを行っている。
1歳の時に聴力を失ったという和歌山市の岩下忠勝さん(65)は「昨年に手話施策推進法が制定され、聴覚障害者への理解や手話は広まってきたが、積極的に利用できる飲食店は少なく困っている」と漏らす。「カフェの店主はろう者に対しての理解があり、安心して利用できる」と手話で語った。
生まれた時から聴力がなかったという同市の尾園雅美さん(49)も、「健常者である河端さんや他の客とも気軽に話せるカフェの存在は貴重」と力を込めた。
学びの場としても
カフェには聴覚障害がある親に育てられた人(コーダ)や、手話に関心を寄せる人も訪れる。手話を学ぶ人からは「手話には地域や世代によって同じ単語でも様々な表現がある。生きた手話や自然な表現を学べる」との声も上がっている。
店主の河端さんは「ここが健常者とろう者がつながっていく場所になれば」と意気込んでいる。



