「日本版スターリンク」とも称される、スマートフォンと衛星を直接つなぐ衛星電話の実現に向けて、総務省が進める低軌道衛星通信インフラ整備事業「J-LEO」。災害時にも利用できる衛星通信網を日本で確保することを目指す一方、実現には数百機規模の衛星コンステレーション構築が必要となる。
J-LEO事業の概要と応募状況
J-LEOは、総務省が「自律性確保に向けた低軌道衛星通信インフラ整備事業」として2025年度補正予算1500億円を基に実施する通信衛星コンステレーションの整備事業だ。一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)が事業を取りまとめ、2026年5月29日で終了した公募の後、1つの事業者が6月半ばごろに採択される予定。単独提案またはコンソーシアム形式での応募が認められている。
同事業では、携帯電話に割り当てられた周波数を用いて、スマートフォンと衛星のダイレクト通信(DTC)をサービスとして実現することを目的としている。29年3月半ばまでに日本全国の一般ユーザーがスマートフォンで利用可能な状態にすること、日本全国で1日のうち7割程度の時間帯はビデオ通話が可能な水準が求められる。
災害時には、連携する移動体通信事業者との間で非常時事業者間ローミング(フルローミング方式、緊急通報を除く)を提供し、音声通信・データ通信・SMSは利用無料で提供することも必要だ。
AST SpaceMobileの軌道計画大幅変更
DTCは現在でも米SpaceXのStarlinkなどが日本国内で利用可能になっているが、これはあくまでグローバルサービスが日本でも利用できるというだけだ。極端なケースでは、衛星事業者側の判断や事情によってサービス内容が大幅に変更される可能性もある。
災害対応も含むJ-LEO事業では、そうしたことが起きないよう、衛星ゲートウェイ局、衛星管制局(SOC)、ペイロード管制局(POC)、ネットワーク管制局(NOC)といった衛星を運用管制する地上施設の国内設置という条件を課してサービス継続を担保する制度になっている。
しかし、J-LEOに参加する事業者は、あと3年弱で1日16時間以上は災害時も含めて日本全国でDTCが利用可能で、衛星管制を日本から行う体制を構築しなければならない。補助金は事業総額の2分の1が上限となるため、さらに1500億円規模の投資が求められる。
楽天モバイルとAST SpaceMobileの連合が有力
公募にはコンソーシアム形式、つまり連名での応募が認められており、有力候補はKDDI+米SpaceXあるいは楽天モバイル+米AST SpaceMobileの「連合」だ。このうち後者が3月、衛星電話の軌道計画を大きく変更した。その内容からは衛星ダイレクト通信網の中身と技術的制約、そして楽天・AST SpaceMobileが強みとして押し出したいポイントが見えてくる。
AST SpaceMobileは、既存の衛星コンステレーション計画を変更し、より高高度の軌道に衛星を配置する方針を示した。これにより、より広い範囲をカバーし、サービス開始時期を早める狙いがあるとみられる。一方で、高度が高くなるほど通信遅延が増加し、スマートフォンとの直接通信に必要な出力も大きくなるため、技術的な課題も存在する。
楽天モバイルは、自社の基地局網とAST SpaceMobileの衛星網を組み合わせることで、日本全国どこでもスマートフォンが使える環境を早期に実現したい考えだ。特に、災害時や山間部など、既存の基地局がカバーしきれないエリアでのサービス提供に強みを発揮すると期待されている。
J-LEO事業の採択結果は、日本の衛星通信インフラの将来を左右する重要な決断となる。総務省は、技術的な実現性や事業の持続可能性、災害対応能力などを総合的に評価し、最適な事業者を選定する方針だ。



