岩手県立大講師の伊藤史人さん(51)が、文化活動に顕著な功績のあった人物を表彰する「吉川英治文化賞」を今年受賞した。情報通信技術(ICT)を駆使した重度障害児支援が評価された。伊藤さんは「テクノロジーを使えば障害はなくなる」との信念のもと、ステージ4のがんと向き合いながら、脳波を活用した新たなアプリの開発にも取り組んでいる。
視線で遊べる「EyeMot」
伊藤さんが開発したのは、視線感知装置をパソコンに接続し、キーボードやマウスを使わずに玉入れや塗り絵など約40種類のゲームを楽しめるアプリ「EyeMot(アイモット)」。脳性まひなどで体が不自由な子どもの学習を支援する目的で作られ、全国約1000の特別支援学校に導入されている。
東京都出身の伊藤さんは1995年、岩手大工学部に進学。中学時代からパソコンに親しみ、インターネット黎明期の大学2年時にはネット上で友人と交流していた。その中の一人と実際に会ったところ、全盲の男性で、県立盲学校教諭の工藤滋・筑波大助教だった。メールの文章は丁寧で、漢字変換も正確だったという。
障害を認識させられた出会い
男性の自宅を訪ねると、音声読み上げや点字入力の機器が並んでおり、「コンピューターがあれば、ネットの世界では障害がないんだ」と気付かされた。ほぼ同時期に始めた障害者支援ボランティアでは、脳性まひの女性が口にくわえた菜箸でパソコンや携帯電話を自在に操る姿を目の当たりにし、環境次第で障害者の能力が伸びることを確信した。
島根大助教だった2014年、ゲームアプリの開発に着手。約1年後に無料公開すると、国内外の重度障害児の保護者から大きな反響が寄せられ、障害のある子がゲームを楽しむ姿に涙する親もいたという。
がんを経て、さらに弱者に寄り添う
約1年前からは、脳波を検知してゲーム利用者の「好き」「嫌い」など5種類の感情を識別するアプリの開発も進めている。9年ほど前にステージ4の肺がんと診断され、弱者への理解が一層深まった。「テクノロジーをうまく使えば、障害者も普通の人と同じパフォーマンスを発揮できる。見た目で能力を過小評価されない世の中にしたい」と語る。



