SNSが生む「怒りの経済」:些細な出来事が文化戦争に変わる仕組み
SNS上で拡散される怒りや対立は、もはや単なるユーザーの反応ではなく、コンテンツそのものの価値を測る尺度となっている。ジャーナリストのアッシュ・サルカール氏は、メディアが「怒り」を収益化する仕組みを「アテンション・エコノミー」と名付け、その危険性を指摘する。2023年5月、コーネル大学とカリフォルニア大学バークレー校のコンピュータ科学者らによる研究では、Twitter(現X)のアルゴリズムが、怒りや敵意を含むコンテンツの表示を優先的に増やしていることが明らかになった。このアルゴリズムの偏向により、ユーザーは感情を刺激されやすい情報にさらされ、結果としてメディア企業は怒りを利用して視聴者の関心を引きつけることが可能になる。
マイクロイベントの病理:誇張される小さな出来事
こうしたメディア業界の傾向が生み出したのが「マイクロイベント」である。サルカール氏は、マイクロイベントの特徴として「その出来事によって影響を受ける人々の数や影響の深刻さに見合わないほど大量の論評が生み出されること」を挙げる。プロデューサーらは時事問題とはかけ離れたレベルの怒りを喚起し、大げさな問題は小さく、些細な問題はグロテスクに誇張される。例えば、気候危機のようなマクロ経済学や地政学上の課題は、政治評論や文化戦争の話題ほど注目を集めない。その結果、怒りの矛先はエリート層の利害関係からそらされ、アイデンティティ問題へと向かう。購入する食材の価格を高騰させる気候危機よりも、独善的なヴィーガンに苛立つ方が簡単で満足度が高いというわけだ。
「SNSの罠」が連帯をむしばむ
サルカール氏は、こうした「SNSの罠」が社会的連帯を損なうと警告する。アルゴリズムが怒りや分断を促進することで、ユーザーは実際には重要でない問題に感情を消耗し、真に解決すべき課題から目をそらす。メディア企業は怒りを燃料に視聴率やエンゲージメントを稼ぐが、その代償として社会の分断が深まる。この「終わらない炎上」のサイクルから抜け出すには、メディアリテラシーの向上やアルゴリズムの透明性確保が不可欠だ。



