設備点検「目視で10日→AIでほぼ即時」、日立流の実装メソッドにヒントあり
設備点検「目視で10日→AIでほぼ即時」、日立流の実装メソッドにヒントあり

日立製作所は、社会インフラの現場でAIを実装し、成果を上げている。設備点検では、目視で約10日かかっていた異常発見を、AIがほぼリアルタイムで実現した。その実装メソッドには、現場に資するAI導入のヒントがあった。

AIを現場に実装する難しさ

「AIを現場に実装します」というフレーズはよく聞くが、簡単ではない。生成AIツールで文章を生成するのとはわけが違う。作業はデジタル化されておらず、データは不ぞろいのまま。物理的な機器を扱う難しさもある。工場や設備といった「現場」でAIを動かすまでには、乗り越えていない壁が多い。

そんな中、社会インフラの保守シーンではAI導入が進んでいる現場がある。「鉄道の架線」の異常を発見するケースでは、従来は車両の屋根に付けたカメラの映像を人が見て、約10日かけて異常を見つけていた。それが今は、走行中の映像をAIがチェックして異常箇所をほぼリアルタイムに示す。

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「AIが読める形式」に暗黙知を変換

産業プラントの保守では「熟練者の判断」を「AIが読める形式」に整理。非熟練者でも「この問題が起きたらどのバルブを締めるか」など判断の必要な作業が可能になり、生産性を30%向上させられた。

現場をAIに任せ、成果を上げるためにはどうすればよいのか。社会インフラ領域でAIの現場実装を手掛けてきた日立製作所(以下、日立)の取り組みに、現場に資するAI導入のヒントがあった。

日立の嵯峨根崇史氏(AI+ソフトウェアサービスビジネスユニット マネージド+プラットフォームサービス事業部 事業部長)は「社会インフラでは、AIの誤った判断が設備停止や事故につながり、人や社会に大きな影響を与えかねない」と述べる。

現場にAIを導入するには、性能だけでなく「正確な判断」と「想定外の事象への対応」の両方が欠かせない。そこで日立は、AIの精度向上に加え、誤判断を防ぐ「ガードレール」と、人がAIの挙動を監視・介入できる仕組みを前提にしている。AIの自律運用を基本としつつ、人が安全性を担保する。

オントロジーで暗黙知を形式知に

AIが正確な判断を下すには、判断の材料となるデータやナレッジが「AI Ready」、つまりAIが理解できる形になっていなければならない。その対象は、設計書や運用ルールだけでなく、熟練者の経験や判断基準も含まれる。だが現実には、データは組織ごとに散在し、ノウハウは暗黙知のまま残る。

どう対応すればよいのか。日立は、専門スキルを持つ人材が客先の現場に入り込み、課題を理解し、データを整備しながら現場のルールや暗黙知を引き出す手法を実践している。

引き出したルールや暗黙知について、業務との関係性を整理し、AIが使える形に体系化する。体系化した知識の形が「オントロジー」だ。嵯峨根氏は、オントロジーを「人が持つ知識や業務の関係性を、AIが理解できる形で整理したもの」と説明する。

同氏はエアコンを例に挙げた。エアコンの効きが悪くなったとき、人間なら「フィルターが目詰まりしているのかもしれない」と推測する。しかしAIは、風量の低下とフィルターの目詰まりに関係があることを最初から知っているわけではない。両者に関係があることを整理しておけば、AIは原因を推定して次のアクションを導ける。

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成果は生産性30%向上、OJT時間90%削減

現場の知識をオントロジーとして整理することで、成果が出た例がある。産業プラントの保守現場では、熟練者が持つ「保守の見解」「設計の知識」をオントロジーとして体系化。「どの問題が生じたらどのバルブを閉じるか」といった対処法を、設備やバルブの位置とともに非熟練者に示すシステムを導入。その結果、生産性が30%向上し、OJT(職場内訓練)の時間は90%低減した(いずれも日立調べ)。

日立が重視するのは、これを一度で終わらせないことだ。整えた知識資産をデータ基盤に蓄積し、AIが判断に使い、得た見解が再び資産として積み上がる。この「知識循環」と並行して、導入後のデータ品質やAIの性能も継続的に監視する。