コスモ石油は、米ボストンダイナミクスが開発した四足歩行ロボット「Spot」を製油所に導入し、設備点検の自律化に向けた概念実証(PoC)を開始した。同社は長期ビジョン「Vision 2035」のもと、石油事業の安定供給と競争力強化を掲げており、デジタルプラント化の一環としてAI駆動型保全の実現を目指している。
四足歩行ロボット「Spot」の導入背景
コスモエネルギーホールディングスの第8次中期経営計画では、石油・石油化学事業の安定供給と競争力強化に加え、持続可能な航空燃料(SAF)などの次世代エネルギーへの挑戦を進めている。その中で、製油所のデジタル化は重要な柱の一つだ。同社はこれまでに、運転管理をリアルタイムで行う「IOW」(インテグレーテッドオペレーションウィンドウ)や、3つの製油所を仮想空間で統合監視する「RCoE」(Reliability Center of Excellence)を導入してきた。次のステップとして、AIエージェントを活用した「AIドリブンメンテナンス」に着手。その先兵として、Spotの実証実験が位置づけられている。
コスモ石油工務部保全戦略グループ長の吉井清英氏は、「現場にフィジカルAIをロボットのように導入し、AIをフル活用しながら安全・安定な稼働をさらに強固にしていきたい」と説明する。
Spotの性能と搭載センサー
Spotは全長1,910mm×全幅500mm×高さ1,100mm、重量32.7kgで、最大秒速1.6mの歩行速度は大人の早歩きに相当する。ゴールデンレトリーバーほどのサイズながら、単体ではデータ取得ができないため、今回のPoCでは複数の機材を搭載する。具体的には、球体カメラ「SpotCAM2」(光学カメラ、サーマルカメラ、LEDライト、集音マイク内蔵)、超音波カメラ「Sorama L642」、デジタルツイン用点群撮影カメラ「LEICA BLK ARC」、自動走行機能センサー「EAP 2」、そして可燃性ガス・酸素・一酸化炭素・硫化水素を検知するポータブルガスモニターを装備。さらに、危険設備内を走行するため、可燃ガスや硫化水素を検知した場合は自動シャットダウンする安全機構も備える。
自動走行性能は高く、階段の昇降はもちろん、設定ルート上の人や障害物を自動認識して回避し、元のルートに復帰可能。道路横断時には車の通過タイミングを見計らって進むこともできるという。
実証実験の内容と成果
コスモ石油は2026年5月24日から28日にかけて、堺製油所(大阪府)の排水処理設備エリアで予備的な現場検証を実施。その結果を基に、PoCでは以下の実証を行う。
- ガス漏れ検知
- 保温配管の劣化状況確認
- 軸受け温度検知
- ポンプの音響検知
特にガス漏れ検知で顕著な成果が得られた。搭載した超音波センサーの画像から、人間のオペレーターでは気づけなかった空気漏れを検出。これにより、水素などの危険ガスを扱う設備で、極微小のガス漏れを早期に発見できる可能性が示された。また、巡回点検の代替として、計器類(圧力計、電流計、液面計、油面計など)の読み取り精度を検証し、夜間でも正確に読み取れることを確認。油漏れによる水路の油膜検出も、Spotでデータを取得しAI解析する検証を実施済みだ。
今後の展開と人との共存
吉井氏は今後の展開について、「まずはどこかの製油所に1台を本格導入し、ノウハウを蓄積。ある程度知見がたまった時点で残り2つの製油所にも展開したい。全製油所に導入した後は、10台、20台のSpotが常に点検している状態を目指す」と述べた。
一方で、すべての管理業務がロボットに置き換わるわけではないという。吉井氏は「はしごを登って高所作業するのは人でないとできない。しかし、人の仕事の一部はロボットで代替でき、逆に人ができないこともロボットならできる。超音波でガス漏れを見つけるのは人にはない能力だ」と指摘。その上で、「人を置き換えるのではなく、人とロボットの協働でトラブルを未然に防ぎ、安全安定操業と稼働率向上を図る。それが競争力強化につながると信じ、ロボット導入を進めたい」と語った。



