STMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)とシンガポール国立大学(NUS)は8月24日、次世代エッジAI技術の研究を目的とする「ST–NUS HELIX Corporate Lab(HELIX)」を設立したことを発表した。HELIXは「Hardware for Embodied Low-power Intelligent Xcceleration」の略で、生成AIやエンボディドAIをエッジで実行するための技術を、AIモデルやシステム・アーキテクチャから回路、メモリ、シリコン実装まで一貫して研究する4年間の共同イニシアティブとなる。
エンボディドAIを小型・低消費電力機器へ実装
HELIXは、ロボットやヒューマノイド、ドローンなどにAIを組み込み、マルチモーダル・センシング、オンデバイス・コンピューティング、リアルタイム・アクチュエーションを連携させるエンボディドAIに注力する。これらの機器では、カメラやセンサから得られるデータを低遅延で処理する一方、搭載スペースや消費電力に厳しい制約がある。このためHELIXでは、AIモデル、異種アクセラレータ、オンチップ・メモリ階層、回路設計、チップ集積を横断して最適化し、電力効率やメモリ帯域幅、遅延、拡張性などの課題解決を図る。
メモリ中心型アーキテクチャでデータ移動を削減
研究では、メモリ中心型アーキテクチャ、インメモリ・コンピューティング、拡張可能な演算・メモリ統合システムを重点分野に位置付ける。AI処理では、演算器とメモリの間でデータを移動する際に多くの電力を消費する。メモリの近く、またはメモリ内部で演算を実行する仕組みや、演算回路と不揮発性メモリを同一チップ上に搭載することで、外部とのデータ移動を減らし、処理性能と電力効率を高める狙いがある。
研究基盤には、STの「P18 18nm FD-SOI」と組み込み型相変化メモリ(PCM)を活用する。P18 18nm FD-SOIは、超低消費電力動作とアダプティブなボディ・バイアスに対応し、処理負荷に応じて性能と消費電力を調整できる。組み込み型PCMは、オンチップSRAMのメモリ階層と同じダイ上に高密度な不揮発性ストレージを搭載できる。AIモデルや演算用データをチップ上に保持することで、メモリ依存型のAIワークロードにおけるチップ外部とのデータ移動を抑える。
専用設計プラットフォームで産業化を加速
STはNUSに対し、P18 18nm FD-SOIで実現した専用の設計シャーシを提供する。同プラットフォームには、STのシリコン、アーキテクチャ、異種集積、チップレット、エンジニアリング技術が組み込まれる。研究者は基盤となる設計環境を一から構築することなく、新たなAIアクセラレータの開発、統合、検証に取り組むことが可能となる。産業グレードのプラットフォーム上でシステムレベルの検証を行うことで、研究成果を量産可能な半導体ソリューションへ移行するまでの期間短縮を図る。
NUSは、集積回路、コンピュータ・アーキテクチャ、AIモデル、システム設計に関する研究能力を提供する。STの半導体開発・製造能力と組み合わせ、エッジAI向け半導体の研究から実用化までを一体で進める。また、学生や研究者、技術者が共同プロジェクトへ参加し、AIシステムや半導体設計の実践的な経験を積める環境を整備する。HELIXを通じて研究成果の産業化を進めるとともに、シンガポールの半導体・AI産業を支える人材と研究エコシステムの育成につなげるとしている。



