日本の半導体産業が、かつての栄光を取り戻すべく、官民一体となった取り組みを本格化させている。政府は2021年度以降、半導体関連の予算を大幅に拡大し、国内生産基盤の強化を推進。特に、先端ロジック半導体の国産化を目指すラピダス(Rapidus)や、世界最大の半導体受託生産企業である台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出が、業界の注目を集めている。
ラピダスの挑戦:2027年の量産開始に向けて
ラピダスは、2022年8月に設立された新会社で、トヨタ自動車やソニーグループ、NTT、キオクシア、ソフトバンク、デンソー、NECの8社が出資。経済産業省も最大700億円の補助金を投入する方針だ。同社は、2027年までに2ナノメートル(nm)世代の先端半導体の量産開始を目指している。これは、現在の最先端である3nm品を凌ぐ微細化技術であり、実現すれば日本は約20年ぶりに最先端半導体の量産体制を取り戻すことになる。
しかし、課題は山積みだ。2nm世代の製造には、極端紫外線(EUV)露光装置など、巨額の設備投資が必要となる。ラピダスは、北海道千歳市に工場を建設中で、総投資額は約5兆円に上ると見込まれる。また、技術面では、IBMとの協業により基礎技術を獲得したものの、量産技術の確立にはまだ時間がかかる。人材確保も喫緊の課題で、半導体業界ではエンジニアの不足が深刻化している。
TSMC熊本工場:2024年の量産開始へ
一方、TSMCはソニーグループやデンソーと共同で、熊本県菊陽町に半導体工場を建設中。総投資額は約86億ドル(約1兆2000億円)で、日本政府は最大4760億円の補助金を決定した。この工場は、2024年12月の量産開始を予定しており、主に22~28nm世代の半導体を製造する。これは、車載用や産業機器向けの需要が高い世代で、日本の自動車業界にとって安定的な調達源となることが期待される。
TSMCの進出は、日本に半導体製造のエコシステムを再構築する契機ともなる。工場の稼働により、関連する材料や装置メーカーの集積が進み、地域経済の活性化にもつながる。しかし、競争は激しく、台湾や韓国、米国などとの技術格差は依然として大きい。
政府の戦略と支援策
経済産業省は、2021年6月に「半導体戦略」を策定。その後も、2022年には「半導体・デジタル産業戦略」を改訂し、2030年までに国内半導体関連売上高を15兆円に引き上げる目標を掲げている。具体的な支援策として、先端半導体の製造拠点整備に対する補助金や、研究開発プロジェクトへの助成、人材育成プログラムの拡充などが進められている。
また、政府は2023年度補正予算で、半導体関連に約1.3兆円を計上。このうち、ラピダスへの追加支援や、AI向け先端半導体の開発支援などに充てる方針だ。さらに、経済安全保障の観点から、特定重要物資として半導体を指定し、サプライチェーンの強靭化を図る。
人材育成の重要性
半導体産業の復活には、高度な技術者や研究者の育成が不可欠だ。国内の半導体人材は、2000年代以降減少傾向にあり、業界団体の調査によると、2030年までに約4万人のエンジニアが不足すると予測されている。これに対応するため、大学や高専での半導体教育の強化や、産学連携による実践的な人材育成プログラムが始まっている。
例えば、東京大学や東京工業大学などが連携し、半導体設計や製造技術を学ぶ専門コースを開設。また、ラピダスは北海道大学と連携し、半導体人材の育成に乗り出している。さらに、海外からの優秀な人材受け入れも検討課題となっている。
今後の展望と課題
日本の半導体産業復活への取り組みは、官民の強い意志の表れだが、成功するかどうかは予断を許さない。巨額の投資を回収するためには、安定した需要の確保と、国際競争力のあるコスト構造の実現が求められる。また、技術の進歩は速く、次世代の1nm世代への対応も視野に入れる必要がある。
一方で、国内に半導体製造拠点を持つことのメリットは大きい。供給途絶リスクの低減や、自動車や家電など最終製品との連携強化、新たなイノベーションの創出などが期待される。日本の半導体産業が再び世界をリードする日が来るのか、その成否は今後の戦略次第と言える。



