光で情報を書き換える新たな不揮発メモリ材料、従来比1000倍高速化に成功
量子科学技術研究開発機構(QST)と福井県立大学、高輝度光科学研究センターは6月8日、電流の代わりに光を使ってスピンメモリの記録を書き換えられる材料の開発に世界で初めて成功したと発表した。「従来方法に比べて約1000倍高速かつ低エネルギーな次世代不揮発メモリ実現に道を開く」(研究チーム)という。
光スイッチ現象を利用した新メモリ材料
スピンメモリは、電荷を情報記憶に用いるメモリと異なり、電子の自転で生じる磁性の性質「電子スピン」の向きをデジタル情報における0と1として扱い、記録に活用している。従来型は電流で電子スピンの向きを変えるが、発熱や消費電力、書き込み速度の向上に限界があるといった問題を抱えていた。
そこで研究チームはNTTや東京科学大学と協力し、電子スピンの向きをレーザー光パルスの照射だけで書き換えられる「人工フェリ磁性体」を新たに設計した。フェリ磁性体は、電流ではなく光によって電子スピンの向きを変える「光スイッチ」現象が見られる。
新材料の開発と実証
しかし、従来型スピンメモリに使われるコバルト・鉄・ホウ素合金(CoFeB)では光スイッチ現象が見られなかった。これまで光スイッチが見られたフェリ磁性体も、電子スピンの向きのそろい具合が悪く、0と1を明確に区別できなかった。
そこで研究チームは、CoFeBやガドリニウム、コバルトなどを3層に積層した材料を新たに設計。さらにQSTなどが運営する研究施設「NanoTerasu」での材料分析を通じて原子レベルで構造を最適化し、CoFeBでの電子スピン反転を再現性の高い形で実証したという。
今後の展望
「本材料によりスピンメモリの高速・低エネルギー化が実現されることで、AIやデータセンターにおける電力消費の課題解決に貢献するとともに、光通信と電子回路をつなぐ次世代高速情報基盤を支える中核技術としての展開が期待される」(研究チーム)。
研究成果は、国際学術誌「Applied Physics Letters」に8日付で掲載された。



