生成AIの進化に伴い、エンジニアリングの現場だけでなく、エンジニアの採用領域にも静かな影響が及んでいる。IT業界では大手企業を中心にリストラの動きが見られ、この流れは日本にも波及。SES(システムエンジニアリングサービス)や受託開発を中心とする企業の倒産、スタートアップ投資の縮小、DXブームの反動など、さまざまな要因が複雑に絡み合いながら、国内のエンジニア採用市場にも影響を与えている。
採用担当者が直面する「シンプルな問い」
こうした環境変化の中で、採用担当者が直面する問いは極めてシンプルだ。「この応募者は、AIに代替されない力を持っているか」。採用はもはや、単なる開発リソースの確保ではない。今求められているのは、AIでは代替できない価値を持つ人材への投資である。
では、企業が注目する「AIに代替されない価値」とは何を指すのか。それは単に「AIにできないこと」を意味するのではなく、AIを理解し、活用し、共に価値を生み出す力や、技術を通じて人や組織を動かす力を指している。こうしたスキルは、今後ますます重要な人材要件として位置付けられていく。
約4割が「エンジニアに求められるスキルは変化した」と回答
リクルーティングアドバイザーがIT人材3000人を対象に実施した調査では、およそ4割が「エンジニアに求められるスキルが変化した」と感じていることが明らかになった。特に重要性が増しているスキルとしては、「プロンプトスキル」(47.5%)、「コミュニケーションスキル」(38.3%)、「プレゼンテーションスキル」(27.5%)が上位を占めた。生成AIを活用するためのリテラシーだけでなく、他者と協働するための非テクニカルスキルの必要性も高まっていることがうかがえる。
技術・AIリテラシー面のスキル
技術・AIリテラシー面で重要視されるスキルは、次の3つだ。
(1)AIツールを業務で活用するスキル:GitHub Copilot、ChatGPT、Cursorなどの生成AIツールを実務で日常的に使いこなし、アウトプットの質や業務効率を高めるスキル。単に使用していることではなく、「使いこなして成果に結び付けているか」が問われる。
(2)AIとの対話設計スキル(プロンプト・設計力):AIに対して的確な指示を与え、意図通りの成果物を引き出すスキル。生成されたアウトプットの品質を見極め、必要に応じて自ら手を加える判断力と編集力も含まれる。
(3)現場での適用力(技術基盤と構成力):LLM(大規模言語モデル)やEmbedding(自然言語を計算が可能な形に変換すること)の限界、RAG構成など、生成AIの技術的背景を理解したうえで、複数のツールを組み合わせて業務フローに適用できるスキル。単なる知識ではなく、現場での「構成・運用の実装力」が重視されつつある。
非テクニカルスキル
一方、非テクニカルスキルも重要だ。
(1)対人スキル(コミュニケーション・ピープルマネジメント):異なる職種や立場のステークホルダーと協働し、信頼関係を築きながらプロジェクトを前に進めるスキル。単なる会話能力ではなく、関係性の中で成果を生み出す力が問われる。
(2)企画・提案能力:曖昧(あいまい)なニーズを正確に捉え、言語化・構造化して提案につなげるスキル。要件定義や戦略立案といった上流工程に欠かせない要素といえる。
(3)課題発見・プロジェクト管理力:顕在化していない問題をいち早く察知し、それを構造的に整理・分解する思考力。問題解決と推進力の両輪は、プロジェクトマネジメントにも不可欠な素養である。
生成AIが得意とするのは、定型的・反復的な業務や、指示に従ったタスクの遂行だ。だからこそ、求職者の間では、こうした「AIには代替されにくいスキル」への意識が高まっているといえる。これからの時代に求められるのは、AIに勝る人材ではなく、AIと共に価値を創出できる人材だ。スキルや知識に加え、創造性や協働性、人間らしさを発揮できるかどうかが、キャリアの選択肢や業務の幅を大きく左右することになる。



