電気自動車(EV)へのシフトが加速する中、自動車産業は大きな変革期を迎えている。従来の内燃機関(エンジン)車からEVへの移行に伴い、部品点数が大幅に減少し、雇用構造やビジネスモデルに深刻な影響を及ぼしている。
EVシフトによる部品点数の激減
EVの部品点数は、エンジン車と比較して約3分の1にまで減少すると言われている。エンジン、トランスミッション、燃料タンク、排気系など、多くの部品が不要になるためだ。代わりに、モーター、バッテリー、インバーター、充電器など、電動化に特化した部品が必要となるが、全体としての部品数は減少する。
この変化は、部品メーカーにとっては死活問題である。特にエンジン関連部品に特化してきた企業は、需要の減少により事業の存続が危ぶまれている。例えば、ピストンやバルブ、燃料噴射装置などを製造する企業は、EVシフトの進展に伴い、これらの部品の需要が急減している。
雇用への影響と再教育の必要性
部品点数の減少は、自動車産業全体の雇用にも大きな影響を及ぼす。エンジン車の生産に従事してきた多くの労働者が、職を失うリスクに直面している。日本自動車工業会の試算によれば、EVシフトにより2030年までに最大で約8万人の雇用が失われる可能性があるという。
一方で、バッテリーやモーターなどの新たな分野では雇用が生まれるが、既存の労働者が新しいスキルを習得する必要がある。再教育やリスキリングが急務となっており、企業や政府の支援が不可欠だ。
ビジネスモデルの変革
EVシフトは、自動車メーカーのビジネスモデルそのものも変えつつある。従来は、車両を販売して利益を得るモデルが主流だったが、EVではソフトウェアやサービスによる収益が重要になっている。例えば、テスラは車両販売だけでなく、自動運転ソフトウェアや充電ネットワーク、バッテリーのリサイクルなど、多角的なビジネスを展開している。
日本の自動車メーカーも、この流れに対応するため、ソフトウェア開発やサービス事業への投資を加速している。トヨタ自動車は2023年、次世代EVの開発方針を発表し、ソフトウェアとハードウェアの統合を重視する姿勢を示した。また、日産自動車は、EV向けのバッテリー生産を強化するとともに、再生可能エネルギー事業にも参入している。
サプライチェーンの再編
EVシフトは、サプライチェーンの構造も大きく変える。従来のエンジン車では、多くの部品メーカーがピラミッド型の階層構造を形成していたが、EVではバッテリーやモーターなど、特定の部品への依存度が高まる。そのため、バッテリー材料の調達や、半導体の確保が重要な課題となっている。
特に、リチウムやコバルトなどのレアメタルは、特定の国に偏在しているため、地政学的リスクも考慮する必要がある。日本の自動車メーカーは、安定した供給源を確保するため、鉱山への直接投資や、リサイクル技術の開発を進めている。
政府の支援と規制
日本政府も、EVシフトに対応するため、様々な政策を打ち出している。2021年に策定した「グリーン成長戦略」では、2035年までに新車販売を全て電動車(EV、HV、PHV、FCV)にする目標を掲げた。また、充電インフラの整備や、バッテリーの国内生産拠点の確保に対する補助金を拡充している。
しかし、欧州や中国に比べると、日本はEVの普及が遅れている。2022年の新車販売に占めるEVの割合は、日本では約1.7%だったのに対し、欧州では約12%、中国では約20%に達している。この差を縮めるためには、より強力な政策と、業界全体の取り組みが必要だ。
今後の展望
EVシフトは、自動車産業に大きな変革をもたらすが、同時に新たなビジネスチャンスも生み出している。部品メーカーは、電動化に対応した製品への転換を図るとともに、ソフトウェアやサービス分野への進出を模索している。また、自動車メーカーは、単なる車両メーカーから、モビリティサービスプロバイダーへと変貌を遂げつつある。
雇用面では、新たな技術に対応できる人材の育成が急務だ。政府と企業が連携して、リスキリングプログラムを提供し、労働者の再就職を支援する必要がある。また、地域経済への影響も考慮し、産業の転換を円滑に進めるための対策が求められる。
自動車産業は、100年に一度の変革期にある。EVシフトは、日本のものづくりの強みを活かしながら、持続可能な社会の実現に貢献するチャンスでもある。業界全体が一丸となって、この変革に立ち向かうことが重要だ。



