生成AI(人工知能)による著名人の肖像や声の無断利用が社会問題化する中、法務省の有識者検討会が近く公表する指針の原案が判明した。法律上、明確に保護されていなかった「声」について、「個人の人格の象徴であり、パブリシティー権による保護の対象となる」と明記。声優の声などを無断で使用して音源を生成し、SNSで公開・収益化する行為を侵害事例として挙げている。
声の法的保護を明確化
生成AI技術の進展により、著名人の声を無断で模倣した音声コンテンツがSNS上で拡散されるケースが相次いでいる。これを受け、法務省は2026年4月、民事上の責任を議論する有識者検討会を設置。特に声については、保護を明確にした法律や判例が存在しないことから、声優など関係者からのヒアリングも実施し、慎重に検討を重ねてきた。
指針案では、声をパブリシティー権および人格権に由来する「みだりに利用されない権利」で保護すると明記。本人と同一の声だけでなく、類似した声が使用された場合もパブリシティー権侵害に当たるとの見解を示した。また、声優の声を無断で使って別の曲を歌わせる音源を生成し、SNSで公開して収益を得るケースや、収益がなくてもフォロワーや閲覧数を稼ぐ目的で投稿し、俳優の営業に不利益を与えたケースを侵害例として列挙。さらに、声優の声を生成できるAIサービスの提供も、類似した声の生成が容易であることを売りにすれば侵害に当たるとの解釈を示した。
物まねとの線引きも
一方で、人間による物まねや声まねといった表現行為については、本人と誤解されなければ侵害には当たらないとの立場を示した。「物まねは芸で人目を引いている」との見方を踏まえ、区別を明確にした。
検討会では、生成AIで実在人物の性的画像を作成・公開する行為についても議論。指針案では「本人の自尊心を傷つけ、肖像権などの侵害と評価される可能性が高い」との見解を示している。
被害額は2か月で20億~45億円
大手芸能事務所などで構成されるNPO法人「肖像パブリシティ権擁護監視機構」の調査によると、日本の芸能人の肖像や声を無断利用したとみられるSNS上の画像・動画は、2025年6月下旬からの2か月間で延べ4万件以上確認された。同機構は経済的損失額を約20億~45億円と推計している。
パブリシティー権は、著名人が自身の名前や肖像などを独占的に利用できる権利で、明文化された法律はないが、2012年の最高裁判決で確立された。今回の指針は、8月にも公表される見通しで、生成AI時代の新たな法的枠組みとして注目される。



