AIが変える融資判断:専門大教授に聞く融資モデルの現在地
AIが変える融資判断:専門大教授に聞く融資モデルの現在地

金融機関の融資審査は、AIとデータ活用によって変革の時期を迎えている。これまで決算書などの定量データを基に時間をかけて行われてきた審査業務は、生成AIの普及により効率化され、短期間・少額の融資やデータ駆動型のデット調達が広がりつつある。

従来は融資を受けにくかった中小企業やスタートアップにとって、資金調達しやすい環境が整い始めた。特集では、取材を通じてAI時代の「カネを貸す条件」について考える。

事業性融資の促進法が施行

2026年5月25日に「事業性融資の促進等に関する法律」が施行され、企業の将来性や経営基盤といった無形資産を担保の対象とする「企業価値担保権」が創設された。同法の総則には「(不動産担保や経営者保証などに依存した)融資慣行の是正及び会社の事業に必要な資金の調達等の円滑化を図り(中略)事業の継続及び成長発展を支える」と明記されている。

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では、企業の「将来性」「価値」をどう測るのか。従来は決算書といった過去のデータを基に判断していたため「融資実行まで時間がかかる」「小規模事業者はデータが乏しく審査が難しい」といった課題があった。その状況が「AI」の登場によって変わりつつある。

AIが融資可否の評価まで提示

「社長の話と、会社の決算データ、世の中の評価などを基にAIが考えて『ここは良い』『ここが悪い』『つじつまが合わない』などを指摘し、融資可否の評価まで出してくれる。精度はともかく、技術的にそこまで可能となってしまった。私がデモンストレーションを見た際は『これなら審査員はいらない』というレベルにまで達している」――専門大学の岡田教授(商学部)はこう話す。

AIの登場で、企業の資金調達はどう変わるのか。貸し切られる企業と貸し切られない企業の差を分かつものは――。AI融資モデルの研究を専門とする岡田教授に聞いた。

そもそも、中小企業やスタートアップはなぜ資金調達に苦労するのか。この問いに対して、岡田教授は「根源的な問題だ」とし、大企業と比較して論点を整理する。

中小企業の決算は年1回、情報の非対称性が課題

決算面では、大企業は四半期または半期ごとに決算を行う。第三者による監査を受けており、決算データの正確性も保証されている。一方で、中小企業の決算は年1回に限られ、監査を受けていないケースも少なくない。

「一般的に、中小企業の決算書の精度や正確性は、大企業よりも低い。銀行から見ると情報の非対称性が大きいため(資金を貸し出すリスクがあることから)、情報格差を埋める努力が必要だ」(岡田教授)

同教授は、社長のパフォーマンスが経営に与える影響も無視できないと指摘する。資本金が数百億円ある大企業であれば、社長が多少の負債を抱えていても大きな問題にならない。しかし中小企業、とりわけ零細企業は、社長の資産や負債を把握しなければ会社の実態が分からないという。

少額融資では採算が取れない

融資審査の一環で、社長の資産――預金や株式、ゴルフ会員権の保有状況などをすべて調べるには労力を要する。決算状況などを含め、情報の非対称性を解消するためにかけた審査コストに対して、金融機関はどれだけのリターンを得られるのか。金利が1%だったとき「大企業への融資10億円」と「中小企業への融資1000万円」では、後者で採算を取るのは難しいという。

少額の融資で採算を取るには、金利を上げるしかない。融資する金融機関にとっては「審査に時間もコストもかかる」「リターンが少ない」「金利を上げざるを得ない」という厳しい状況になる。

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融資を受けたい中小企業の立場では「本当はいますぐお金がほしいのに、融資を申し込んでから結果が出るまでに1カ月かかるため、ビジネスチャンスを逃してしまうというデメリットがある」(岡田教授)。大企業と同じくらいの信用力があっても、企業規模が小さいというだけで金利が高くなることもあるという。

「与信コストを下げられて、金利も下げられて、スピーディーに融資できれば、金融機関にも企業にもメリットがある。ここにAIの活躍の場があり、銀行や金融ベンチャーなどさまざまな企業がこの業界に参入して伸び上がっているのが現状です」(岡田教授)

AI融資モデルとは何か

融資審査の現場で使うAIは、どのようなものなのか。AI融資モデルは、決算データを基に融資可否の判断を支援することが基本だという。岡田教授は、AI融資モデルを2種類に分けて特徴を説明する。

一つが、決算書などの定量データや構造化データを機械学習の手法で分析する「ホワイトボックス型」だ。さまざまな情報から「この企業が今後倒産する確率はどれくらいなのか」を判定するもので、長年にわたり研究されている。

岡田教授はホワイトボックス型モデルの開発に携わる中で「決算データ以外の重要な要素」を研究している。同教授が注目する要素の一つが「業歴」だ。事業年数と倒産確率の関係性をグラフで表すと「U字型」になる。創業初期は倒産しやすく、中期は事業が安定するため倒産確率が低下するが、企業が成熟すると後継者問題などを受けて会社を畳むケースが増えるという。

岡田教授は「経営者のパフォーマンスをなんとか数値化できないか研究してきた。最近はさまざまなデータを取得できるようになっている」と説明。「経営者のSNS投稿をチェックする」「経営者のネットショッピング履歴から性格を判定する」といった試みがあるという。海外では同意を得た上ではあるが、経営者に持たせたGPS発信機から得た行動履歴を評価に役立てる例もあるようだ。

生成AIを活用する「ブラックボックス型」

ホワイトボックス型の後に登場して注目を集めているのが、生成AIを活用する「ブラックボックス型」だ。従来の技術では難しかった「リアルタイムの入出金情報」「Web公開情報やSNS投稿などの非構造化データ」の分析が可能になっている。

岡田教授が例に挙げたのが「飲食店の『味』の評価」だ。飲食店の将来性を見極める際、味は重要な要素だが、審査員の主観になりかねない。これが、生成AIの登場によって「食べログ」などの口コミを分析できるようになった。AIによる口コミ分析を使い始めている金融機関もあるという。

「生成AIがすごいのは、自ら判断して考える点だ。構造化データを読み込み、さらにインターネット上の情報を集めて、データの整合性を加味しながら『この企業はここに問題がある』『融資できる、できない』まで判断できる。金融機関内の稟議(りんぎ)書のコメントを生成するところまで、技術的にできるようになった」(岡田教授)