エグゼクティブ・リゾートワーカーの佐々木雅士氏に、約5年ぶりに「AI時代の社長の働き方」について話を聞いた。前回は、社長がいなくても回る会社を作るための「エグゼクティブ・リゾートワーカー」がテーマだったが、この5年で生成AIやAIエージェントが登場し、経営環境は大きく変わった。
AI時代の社長の仕事とは
「社長の一番大事な仕事であり、かつ社長にしかできない仕事は、ビジネスモデルの洗練と拡大」と佐々木氏は話す。組織づくりや業務推進は社員に任せられるが、リスクを取って新しい事業を考え挑戦できるのは社長だけだ。AI時代になっても社長の仕事はなくならず、むしろ社長にしかできない仕事が明確になったという。
経営者は、電話やチャットなどの雑音から距離を置き、会社の未来を設計する時間を意識的に作るべきだと佐々木氏は強調する。「会社にいると目の前の問題に引っ張られる。あえて外に出て、新しい取り組みだけを考える時間を作るべき」と語る。
AIは組織の前提を変える
佐々木氏自身、この数年でAIによる組織の変化を実感している。2026年初頭にはベトナム現地法人を解散した。人材紹介事業では、以前はベトナム人のキャリアアドバイザーが4人必要だったが、AIが履歴書の読み込みやマッチング、推薦文作成を自動化したことで、日本人の在宅スタッフ1人で回せるようになった。固定費は下がり、サービスの質は向上した。これは単なる人件費削減ではなく、業務のどの部分を人が担い、どこをAIに任せるかという設計の見直しである。
AI活用には2つの軸がある。一つはAIとの壁打ちで事業構想を深掘りすること、もう一つは業務フローをAIエージェントを前提に再設計することだ。これらをオフィスの雑音の中で行うのは難しく、リゾートワークの意味が変わる。リフレッシュではなく、AIと向き合い会社の構造を作り直すために、社長は外に出るのだ。
移動する社長が次の事業に出会う
佐々木氏にとって移動はビジネスを生む行動そのもの。過去にタイ、ミャンマー、ベトナム、シンガポールで事業の可能性を探り、ミャンマーでは宝くじのネット販売や金の採掘、マイクロファイナンスなどを検討したが、政情変化で撤退した。それでも「外に出たからこそ得られた経験」と捉えている。
現在注目するのはドバイだ。低い法人税や所得税、会社設立やビザ取得のハードルの低さに加え、AIや暗号資産に前向きな環境がある。日本との時差5時間を逆手に取り、日本の日中ノイズを避けて「社長の独り時間」を作りやすい。新しい人や情報、最先端領域に視野が向くようになる。
役員旅費規程で移動を習慣化
佐々木氏が重視するのは「役員旅費規程」の整備だ。制度を正しく実装すると、出張に伴う日当が支給され可処分所得が増える。さらに、社長は出張を意識的に増やすようになり、人との出会いや情報量が増え、新規事業の種が生まれる。単なる節税手法ではなく、社長の行動を前向きに変える仕組みである。
増えた可処分所得は「再投資」に回すことが大切だ。「事業投資でも自己投資でも、海外に出て普段会えない人と会い、視野を広げて視座を高める。それが次の意思決定の好材料になる」と佐々木氏は語る。
「ワーケーション」から「決断する場所」へ
ワーケーションは一般化したが、社長にとっては休暇と仕事のバランスではなく、ノイズを消して会社の方向性を真剣に考える時間を持つことだ。「リラックスすることだけが目的ではない。今日はこのテーマだけを考えると決めて、意図的に時間を作る」と佐々木氏。
AI時代の経営者に求められるのは、何を社員・役員・AIに任せるかを決め、社長にしかできない大きな挑戦を考え、リスクを取って前に進むことだ。佐々木氏の会社では新規事業案をまず社長が考案し、役員がリスクや実現可能性を検討する。このトライ&エラーの繰り返しが社長の役割だ。
エグゼクティブ・リゾートワーカー2.0とは、リゾート地で単に仕事をする働き方ではなく、社長が外に出てAIと向き合い、人と出会い、世界の変化を肌で感じながら次の事業を構想する経営戦略のこと。組織が自走するだけでは不十分で、AIと協働し世界を見ながら自社の未来を描くために、社長はもっと会社を離れるべきだ。会社を離れる時間を持てる社長ほど、会社を強くしていくのかもしれない。



