不安を感じた時、どうすればいいのでしょうか。脳神経外科医の菅原道仁さんは「副交感神経が優位になると、脳と体がリラックスした状態になる。脳のスイッチを切り替えるためにおすすめの呼吸方法がある」と述べています。本稿は、菅原道仁氏の著書『幸せな人は「感じる脳」を持っている』(宝島社)の一部を再編集したものです。
頭で止められない不安は身体から整える
感情は脳内だけで完結する現象ではなく、身体の状態と密接につながっています。そのため、頭で考えても不安が止まらないときは、身体の側から「もう安全だ」という信号を返すほうが近道になることがあります。日本の思想や芸道では、まず身体のあり方が心を整えるという意味で、「心身」ではなく「身心」と捉える考え方があります。実際、世阿弥の芸道論を「身と心」の状態を整える技法として読む研究もなされています。
そこで力を発揮するのが、呼吸と姿勢の調整です。特に、吐く息を意識して長くする方法は有効な手段の一つです。深く長く息を吐くと、副交感神経が働きやすくなり、高ぶった心拍や筋肉の緊張が鎮まりやすくなります。
「吐く息」を長く保つ効果
この調整のメカニズムの中心を担っているのが、脳から心臓、肺、消化器へと伸びる迷走神経です。迷走神経は体内でもっとも大きな副交感神経の一つであり、その働きは自律神経のしなやかさの指標である心拍変動(HRV)にも顕著に現れます。特に「吐く息」を長く保つことは、迷走神経の活動をダイレクトに高めるスイッチになります。すると心拍を穏やかに抑制するブレーキが働き、脳と体がリラックスした状態へと導かれます。
理屈で「大丈夫だ」と言い聞かせても不安が収まらないときこそ、身体の側から「もう安全だ」という信号を脳に送り届けるほうが解決が早いのです。言葉による説得が届かないなら、身体からの信号で脳の判断を上書きしてしまえばいいのです。
「4秒吸い、6~8秒吐く」を繰り返す
具体的な方法として、菅原氏は「4秒かけて鼻から息を吸い、6秒から8秒かけて口からゆっくり吐く」呼吸法を推奨しています。これを数回繰り返すだけで、副交感神経が優位になり、心拍数が落ち着き、筋肉の緊張が緩みます。この呼吸法は、どこでも手軽に実践できるため、不安を感じた瞬間に試すことができます。
都会より自然の中を歩くほうが脳にいい
さらに、菅原氏は自然環境の重要性も指摘します。都会の喧騒よりも、緑豊かな公園や森林を歩くことで、脳のストレス反応が軽減され、リラックス効果が高まることが研究で示されています。自然の中では、副交感神経が活性化しやすく、不安や緊張が和らぎやすくなるのです。
頭の中のモヤモヤを体の外へ出す方法
不安や悩みが頭の中をぐるぐる回っているときは、それを紙に書き出すことも有効です。頭の中のモヤモヤを可視化することで、客観的に捉えられるようになり、脳の負担が軽減されます。また、軽い運動やストレッチも、身体を動かすことで気分転換になり、不安を和らげる効果が期待できます。
いま、自分にとって最も必要なことは?
最後に、菅原氏は「いま、自分にとって最も必要なことは何か」を自問することを勧めています。不安に駆られると、未来のことや過去の後悔に意識が向きがちですが、現在の自分に焦点を当てることで、冷静な判断ができるようになります。この問いかけは、脳を安心モードに切り替えるきっかけとなるでしょう。
明日へ進むための「架け橋」に変わる
不安は決して悪いものではなく、適切に対処することで成長のきっかけになります。呼吸法や自然との触れ合い、書き出しなどの方法を活用して、不安を明日へ進むための架け橋に変えていきましょう。脳の仕組みを理解し、上手に付き合うことで、より幸せな毎日を送ることができるはずです。



