生成AIの急速な進化は、人々のキャリア選択にも影響を及ぼしている。オフィスでのデスクワークから製造や建設、運搬をはじめとするブルーカラー職へ転職するビジネスパーソンも増えつつある。一体なぜ、これまで「安定」とされることもあった事務職などのデスクワークから離れるのか。その背景には、AIによる仕事の代替に対する懸念だけでなく「手に職をつけたいという意識」「人手不足による需要の高まり」などもある。
人材サービス2社の調査と取材から、学生や若手社会人の間で起きているキャリア観の変化に迫る。
「AIで仕事がなくなる」約3人に1人がキャリア選択に影響
若年層のキャリア観の変化は、すでに新卒採用市場で顕著に表れている。マイナビのキャリアリサーチLabが調査したところ、就職活動において「AI技術などの登場によって就職観に影響を受けた」と答える学生は、生成AI登場期の2023年に活動していた学生(2024年卒)では15.6%だったが、2027年卒の就活生においては32.2%と2倍超に増えた。
「希望業界ランキングなどに影響を及ぼすまでは至っていませんが、個々の学生の声を聞くと、AIに業務を代替されることへの懸念が、希望業界や希望職種の選択に影響したという意見もあります」とキャリアリサーチLab研究員の中嶋英理氏は話す。
具体的には、文系の学生からは「もともとは一般事務を考えていたが、AIの普及で採用人数が減らされる見込みであることから、総合職を希望している」、理系の学生からは「IT系を希望しようと思っていたが、今後のAIの普及でコーディングはほぼAIがやってくれるため仕事がなくなるのではと不安を感じたため諦めた」といった声がある。
AIによる業務代替への懸念は、企業側にも広がっている。同研究機構の宮本恵美子氏は「AIの普及による業務代替が、自社の雇用や人員削減に影響している、あるいは今後影響がありそうだと回答した企業が3割以上」に上るという調査結果もあると解説する。
ホワイトカラーからブルーカラーへ 若手の転職を動かす理由
エッセンシャルワーカー向けキャリア支援サービス「レバジョブ」を展開するレバレジーズ(東京都渋谷区)が、ブルーカラー職の従事者を対象に実施した調査では、回答者の約5人に1人が、ホワイトカラー職からの転職者だった。
同事業責任者の藤山拓也氏によると、同社サービスの登録者で「ホワイトカラー職からブルーカラー職への転職」に該当する人は、直近1年(2025年6月〜2026年5月)で約4倍に増えたという。
ブルーカラー職を選んだ理由については「特になし」(47.4%)を除くと、「手に職がつくから」(13.7%)が最多となり「体を動かす仕事が好きだから」(13.5%)、「収入が良いから」(13.3%)と続く。
一方で、年代別に見ると20代では「AIに代替されにくい安心感があるから」(14.5%)や「人手不足で転職先に困らないイメージがあったから」(13.1%)などが上位に挙がった。
藤山氏はこの背景について「AIの台頭によって自身の仕事が将来残るのかという不安を抱える中、結婚や子どもの入学といったライフイベントを機に、需要の高い『手に職をつけられるブルーカラー領域』へキャリアチェンジする人が増えている状況です」と分析する。
同社がホワイトカラー職からブルーカラー職に転職した従業者を対象に実施した別の調査では、転職の理由としてホワイトカラー職の将来性に「非常に不安があった」(20.6%)、「どちらかというと不安があった」(42.9%)と回答した人は合わせて6割を超えた。
不安に感じていた要因としては「将来的に市場での需要が減り、転職先が見つからなくなること」(39.4%)が最も多く、「自分の持っているスキル・知識がAIに代替されること」(25.8%)も上位に挙がっている。
また、ホワイトカラーからの転職者が事務や営業の仕事で培った「スケジュール管理」「円滑な対人コミュニケーション」といったビジネススキルが、ブルーカラーの現場で重宝されるケースも少なくないという。
藤山氏は「どの現場でもPCやITリテラシーを使った業務は増える一方なので、そうしたスキルを持つ人は高く評価される傾向にあります」と語る。
「ブルーカラービリオネア」は日本で生まれるか 企業にも変化
米国では、AIでは代替しにくい現場職で高収入を得る「ブルーカラービリオネア」現象が注目されている。藤山氏は、こうした現象が日本でも起こり得るとみる。
「歴史的に見ても、米国で起きたことは5〜10年後に日本でも起こる傾向があります。さらに、今後も円安が続くと仮定した場合、国内でモノを作って海外へ輸出するという動きに国も注力していくでしょう。そうなれば、国の基幹産業に労働力が集まりやすくなり、同時に賃上げも起きやすくなると考えています」(藤山氏)
人手不足で従来の経験者だけを採用することが困難になる中、新たにブルーカラー人材を受け入れる企業側の姿勢にも変化が生じている。藤山氏によると「社内の育成の仕組みを整え、そこに投資できる体制を作ってから未経験者を採用する」という企業が増えているという。
未経験者を育成するマネジメント力をどう高めるか。また、デジタルツールを活用して業務改善を推進できる人材をどう評価するか。ブルーカラーの現場を持つ企業にとって、人事制度や育成環境の見直しが今後の競争力を大きく左右することになりそうだ。



